12. 線束の正値性とKodaira埋め込み
12.1 局所的な不等式から大域座標は作れるか
前章で、\(\mathcal O(1)\to\mathbb{CP}^n\) のChern曲率が \[ iF_{\mathcal O(1)} =\omega_{\mathrm{FS}}>0 \] を満たすことを見た。また射影埋め込み \[ \Phi:X\hookrightarrow\mathbb{CP}^N \] があれば、 \[ L=\Phi^*\mathcal O(1) \] は正の曲率を持つ。
ここまでは \[ \text{射影埋め込み} \Longrightarrow \text{正値線束} \] という向きである。逆向きは成り立つだろうか。
正値性は各点の近くで測る曲率の不等式である。射影埋め込みは、有限個の大域正則切断が全ての点と接方向を区別するという大域的な主張である。両者の間には大きな隔たりがある。この隔たりを埋めるのが \(\bar\partial\) 方程式の解析である。
12.2 正値線束の定義を固定する
\(X\) を複素多様体、\(L\to X\) を正則線束とする。
定義(正値線束)
\(L\) が正値であるとは、滑らかなHermitian計量 \(h\) が存在し、そのChern曲率 \(F_h\) に対して \[
iF_h
\] が正定値な実 \((1,1)\)-形式になることをいう。
局所正則枠 \(e\) に対して \[ h(e,e)=e^{-\varphi} \] と書けば、第10章の規約では \[ F_h=\partial\bar\partial\varphi. \] したがって正値性は \[ i\partial\bar\partial\varphi>0 \] と同値である。つまり局所重み \(\varphi\) が強多重劣調和であることを要求している。
この条件は枠によらない。正則枠を \(e'=eg\) と変えると \[ e^{-\varphi'} =|g|^2e^{-\varphi}, \qquad \varphi' =\varphi-\log|g|^2. \] 零にならない正則関数 \(g\) に対して \[ \partial\bar\partial\log|g|^2=0 \] なので、 \[ \partial\bar\partial\varphi' =\partial\bar\partial\varphi. \] 局所重み自体は変わるが、その複素Hessianは変わらない。
12.3 正値性は位相だけの性質ではない
第一Chern類 \[ c_1(L) = \left[ \frac{i}{2\pi}F_h \right] \] は計量 \(h\) に依存しない。しかし「ある代表が正定値である」という主張は、単なるコホモロジー類の非零性より強い。
たとえば自明線束の第一Chern類は零である。コンパクト複素多様体上で自明線束が正値だと仮定すると、 \[ iF_h=i\partial\bar\partial\varphi \] が正の完全形式になる。複素次元を \(n\) とすれば \[ \int_X(iF_h)^n>0 \] である一方、\(iF_h=d(i\bar\partial\varphi)\) かつ \(d(iF_h)=0\) なので \[ (iF_h)^n = d\left( i\bar\partial\varphi\wedge(iF_h)^{n-1} \right). \] Stokesの定理から積分は零になり、矛盾する。
正値性は「曲率がどこかで正」でも「第一Chern類が非零」でもない。全点・全複素接方向で正である代表を持つという条件である。
12.4 なぜ高いテンソル冪を取るのか
\(L\) の局所枠を \(e\)、計量を \[ h(e,e)=e^{-\varphi} \] とする。\(L^{\otimes m}\) の局所枠は \(e^{\otimes m}\) であり、その長さは \[ h^m(e^{\otimes m},e^{\otimes m}) =e^{-m\varphi}. \] よって曲率は \[ F_{h^m} = \partial\bar\partial(m\varphi) =mF_h. \] したがって \[ \boxed{ iF_{h^m}=m\,iF_h. } \] テンソル冪を上げると、曲率の正値性は線形に増幅される。解析では、\(\bar\partial\) を解く際に曲率の正の項と、切断関数・背景計量・補助束から生じる誤差項を比較する。この正の項を誤差より大きくするために \(m\gg1\) が必要になる。
「高い冪を取れば切断が増える」という代数的な見方の背後には、「曲率が増幅され、\(\bar\partial\) 方程式を一様に解きやすくなる」という解析的な理由がある。
12.5 切断は何を満たせば埋め込みを作るか
コンパクト複素多様体 \(X\) 上では \(H^0(X,L)\) は有限次元である。基底を \[ s_0,\ldots,s_N \] とする。どの点でも全切断が同時に零にならなければ、 \[ \Phi_L:X\longrightarrow\mathbb{CP}^N, \qquad x\longmapsto[s_0(x):\cdots:s_N(x)] \] が定まる。
基底を変えると射影空間の射影線形変換が合成されるだけなので、「\(\Phi_L\) が埋め込みか」という性質は基底によらない。
埋め込みには三つの条件が必要である。
- 基点がない。 各 \(x\in X\) に対し \(s(x)\neq0\) となる切断 \(s\) がある。
- 点を分離する。 \(x\neq y\) に対し、\(\Phi_L(x)\neq\Phi_L(y)\) となる切断系がある。
- 接方向を分離する。 各 \(x\) で微分 \[ d\Phi_{L,x}:T_xX\longrightarrow T_{\Phi_L(x)}\mathbb{CP}^N \] が単射である。
これらを満たす線束を非常に豊富、またはvery ampleという。本書では定着した日本語が一様でないため、必要に応じてvery ampleを併記する。
12.6 点と接方向の分離を局所切断で読む
点 \(x\in X\) の近くで正則座標 \[ z=(z_1,\ldots,z_n), \qquad z(x)=0 \] と \(L\) の局所正則枠 \(e\) を取る。
基点をなくすには、局所的には \[ \sigma_0=e^{\otimes m} \] のように \(x\) で零にならない切断が欲しい。
接方向を区別するには \[ \sigma_j=z_j e^{\otimes m} \qquad (j=1,\ldots,n) \] のように、\(x\) では零だが一次微分が指定方向に非零となる切断が欲しい。実際、 \[ \frac{\sigma_j}{\sigma_0}=z_j \] だから、これらが大域切断として存在すれば、射影写像の局所座標は一次まで元の座標 \(z_j\) を再現する。
異なる二点 \(x\neq y\) を分離するには、たとえば \[ s(x)\neq0, \qquad s(y)=0 \] となる大域切断を作ればよい。
問題は、上の \(\sigma_j\) が局所切断にすぎないことである。局所的に望ましい値や微分を持つ切断を、大域正則切断へ直せるだろうか。
12.7 切って貼るだけでは正則にならない
\(x\) の近くで \(1\) となり、少し外で \(0\) となる滑らかな切断関数 \(\chi\) を選ぶ。局所切断 \(\sigma\) に掛けた \[ \widetilde\sigma=\chi\sigma \] は大域的な滑らかな切断へ延長できる。しかし \[ \bar\partial_L\widetilde\sigma = \bar\partial\chi\otimes\sigma +\chi\bar\partial_L\sigma. \] \(\sigma\) は局所正則なので第二項は零だが、切断関数が変化する領域では \[ \bar\partial_L\widetilde\sigma = \bar\partial\chi\otimes\sigma \neq0. \] 滑らかな切断を貼り合わせるpartition of unityは存在するが、正則なpartition of unityは一般に存在しない。正則性は局所データを勝手に切って貼ることを許さない。
そこで補正項 \(u\) を \[ \bar\partial_Lu = \bar\partial_L\widetilde\sigma \] となるように解く。すると \[ s=\widetilde\sigma-u \] は \[ \bar\partial_Ls = \bar\partial_L\widetilde\sigma-\bar\partial_Lu =0 \] を満たすため、大域正則切断になる。
必要なのは、単に解 \(u\) が存在することだけではない。\(u(x)\) やその一次微分が十分小さい、あるいは零になるよう制御し、最初に仕込んだ局所データを壊さないことが必要である。
12.8 曲率が dbar 方程式を助ける
正値性と \(\bar\partial\) 方程式の関係は、Bochner–Kodaira–Nakano型の恒等式に現れる。完全な一般形にはベクトル束値形式の添字が必要なので、ここでは役割が見える形を述べる。
重要な非自明結果(解析的評価の概形)
コンパクトKähler多様体上の正値線束 \(L\) を考える。 \[
A_m=L^{\otimes m}\otimes K_X^{-1}
\] の曲率は、\(L^{\otimes m}\) から来る \(m\) 倍の正の項と、固定した \(K_X^{-1}\) から来る項の和である。したがって \(m\gg1\) なら \(A_m\) は正値になる。Bochner–Kodaira–Nakano恒等式を \(A_m\)-値 \((n,q)\)-形式、\(q>0\)、に適用する。これは \[
K_X\otimes A_m=L^{\otimes m}
\] により \(L^{\otimes m}\)-値 \((0,q)\)-形式と対応する。この型の形式 \(\alpha\) には \[
\|\bar\partial\alpha\|^2
+\|\bar\partial^*\alpha\|^2
\ge
(cm-C)\|\alpha\|^2
\] という評価が成り立つ。ここで \(c>0\) は \(L\) の曲率の正の下限から来て、\(C\) は背景幾何や補助束に由来し、\(m\) に依存しない。
\(m\) を十分大きくすると \[ cm-C>0 \] となる。すると \(q>0\) でLaplacianの核やコホモロジー障害が消え、 \[ H^q(X,L^{\otimes m})=0 \qquad(q>0,\ m\gg1) \] を得る。特に埋め込みの構成で現れる \(L^{\otimes m}\)-値 \((0,1)\)-形式について、\(\bar\partial\)-閉ならノルムを制御した解を作れる。\(q=0\) はこの正の下界の主張に含めない。実際、非零正則切断は \(\bar\partial\alpha=0\) を満たすからである。
ここで重要なのは、曲率が抽象的な飾りではなく、二階微分作用素のエネルギー評価に正の項として入ることである。
12.9 Kodaira消滅定理が示すもの
正値性がコホモロジー障害を消す代表的な結果を正確に述べる。
定理(Kodaira消滅定理)
\(X\) を複素次元 \(n\) のコンパクトKähler多様体、\(L\to X\) を正値正則線束とする。このとき \[
H^q(X,K_X\otimes L)=0
\qquad(q>0)
\] である。ここで \[
K_X=\Lambda^{n,0}T^*X
\] は標準線束である。
この定理は「正なら全ての高次コホモロジーが無条件に消える」とは述べていない。標準線束 \(K_X\) とのテンソル積と、次数 \(q>0\) が主張に含まれる。双対性を使う別形式では負値線束側の消滅として現れる。
Kodaira埋め込み定理の証明では、点や一次jetを指定する理想層との完全列に消滅定理を適用する代数的な方法、または重み付き \(L^2\) 評価で局所切断を直接補正する解析的方法が使われる。いずれも、正値性が \(\bar\partial\) コホモロジーの障害を消すという同じ原理を使っている。
12.10 基点をなくす仕組み
点 \(x\in X\) を固定する。局所枠 \(e\) と切断関数 \(\chi\) を使って \[ \widetilde\sigma=\chi e^{\otimes m} \] を作る。\(\chi=1\) である \(x\) の近くでは \[ \bar\partial\widetilde\sigma=0. \] 誤差 \[ v=\bar\partial\widetilde\sigma \] は、\(\chi\) が変化する環状領域にだけ台を持つ。正値性から得る評価で \[ \bar\partial u=v \] を解き、 \[ s=\widetilde\sigma-u \] と置く。
重みを選んで \(u\) が \(x\) で消えるように制御すれば \[ s(x)=\widetilde\sigma(x)=e^{\otimes m}(x)\neq0. \] 各点でこの切断を作れるので、十分大きい \(m\) では \(L^{\otimes m}\) に基点がない。
コンパクト性はここでも本質的である。各点の近くで得た評価を有限個の座標近傍にまとめ、全点に共通する一つの \(m_0\) を選ぶために使われる。
12.11 接方向を分離する仕組み
点 \(x\) と零でない接ベクトル \[ \xi\in T_x^{1,0}X \] を固定する。座標を選び直して \[ \xi=\left.\frac{\partial}{\partial z_1}\right|_x \] としてよい。
今度は局所モデル \[ \widetilde\sigma = \chi z_1e^{\otimes m} \] を使う。補正後の大域正則切断 \(s\) が \(x\) で一次jetを保てば \[ s(x)=0, \qquad \nabla_\xi s(x)\neq0. \] 一方、前節で作った \(s_0\) は \(s_0(x)\neq0\) を満たす。射影座標の一つ \[ \frac{s}{s_0} \] は \(x\) で零だが、その \(\xi\) 方向微分は非零である。したがって \[ d\Phi_{L^m,x}(\xi)\neq0. \] 全ての非零接方向についてこの構成ができれば、射影写像はimmersionになる。
12.12 異なる点を分離する仕組み
\(x\neq y\) を固定する。互いに交わらない小さな座標近傍を選び、\(x\) の近くで \(1\)、\(y\) の近くで \(0\) となる局所モデルを作る。これを大域的な滑らかな切断へ延長し、\(\bar\partial\) 誤差を補正する。
値を保つ評価により \[ s(x)\neq0, \qquad s(y)=0 \] となる大域正則切断を得る。基点をなくす切断 \(s_0\) と組み合わせれば \[ [s_0(x):s(x)] \neq [s_0(y):s(y)] \] となるよう選べるため、射影写像は \(x,y\) を分離する。
一様化には少し注意が要る。 \[ X\times X\setminus\Delta \] はコンパクトではないので、各二点で得た近傍をそのまま有限個に減らすことはできない。まず前節の接方向分離と逆写像定理から、射影写像が各点の近くで単射となるようにする。コンパクト性により、対角線 \(\Delta\subset X\times X\) の一つの近傍で全ての近い二点を分離できる。次に、その近傍を除いた部分はコンパクトなので、互いに離れた二点に対する分離切断を有限個にまとめられる。この二段階で全ての二点に共通する \(m_0\) を選ぶ。
12.13 Kodaira埋め込み定理
定理(Kodaira埋め込み定理)
\(X\) をコンパクト複素多様体、\(L\to X\) を正値正則線束とする。このとき、ある \(m_0\) が存在し、全ての \(m\ge m_0\) に対して \(L^{\otimes m}\) はvery ampleである。すなわち、その大域正則切断が定める写像 \[
\Phi_m:X\longrightarrow
\mathbb P\bigl(H^0(X,L^{\otimes m})^*\bigr)
\] は正則埋め込みである。
ここでは \(X\) にKähler性を別途仮定していない。正値線束の曲率 \[ iF_h>0 \] 自体が \(X\) 上のKähler形式を与えるからである。
何が非自明か。
- 正値性は局所曲率の条件なのに、大域正則切断の存在を導く。
- 切断が存在するだけでなく、全ての点と一次jetを分離するほど多く存在する。
- 一つの十分大きい \(m\) が、コンパクトな \(X\) 全体で働く。
証明概略。
- \(L^m\) の曲率が \(m\) 倍になることを使い、\(\bar\partial\) 方程式に一様な評価を得る。
- 切断関数を掛けた局所正則切断の \(\bar\partial\) 誤差を、評価付きで解く。
- 点での値、二点での値、点での一次jetを指定する大域正則切断を作る。
- それらから \(\Phi_m\) が基点を持たず、点を分離し、微分が単射であることを示す。
- コンパクト空間からHausdorff空間への単射連続写像は像への同相写像であり、正則immersionでもあるので、\(\Phi_m\) は正則埋め込みになる。
技術的に難しいのは第2段階である。特異な重みを使って補正項の値やjetを消す解析、あるいは理想層と消滅定理を使う層コホモロジーの議論が必要になる。本書ではこれを「容易に切断を作れる」とは扱わず、定理の解析的核心として明示しておく。
12.14 整なKähler類から正値線束へ
射影的なら整なKähler類を持つことは前章で見た。逆向きには二段階ある。
\(X\) をコンパクトKähler多様体とし、Kähler形式 \(\omega\) が \[ \left[\frac{\omega}{2\pi}\right] \in \operatorname{im}\left( H^2(X;\mathbb Z) \longrightarrow H^2(X;\mathbb R) \right) \] を満たすとする。
第一段階はLefschetzの \((1,1)\) 定理である。
重要な非自明結果(Lefschetzの \((1,1)\) 定理)
コンパクトKähler多様体 \(X\) では \[
\operatorname{im}\! \left(
\operatorname{Pic}(X)\xrightarrow{c_1}H^2(X;\mathbb Z)
\longrightarrow H^2(X;\mathbb C)
\right)
=
H^{1,1}(X)\cap
\operatorname{im}\bigl(
H^2(X;\mathbb Z)\to H^2(X;\mathbb C)
\bigr).
\] したがって \([\omega/(2\pi)]\) は、ある正則線束 \(L\) の第一Chern類である。
第二段階では、\(L\) の任意のHermitian計量 \(h_0\) を取り、その曲率代表を \[ \omega_0=iF_{h_0} \] とする。\(\omega\) と \(\omega_0\) は同じde Rham類を表す実 \((1,1)\)-形式なので、\(\partial\bar\partial\)-補題により、ある実関数 \(\psi\) が存在して \[ \omega-\omega_0 =i\partial\bar\partial\psi. \] 計量を \[ h=e^{-\psi}h_0 \] へ変えると、第10章の計量変換公式から \[ iF_h =iF_{h_0}+i\partial\bar\partial\psi =\omega. \] よって \(L\) は正値である。Kodaira埋め込み定理を適用すれば、\(X\) は射影的になる。
12.15 射影性の微分幾何的判定
以上をまとめると、次の同値を得る。
定理
コンパクト複素多様体 \(X\) に対し、次は同値である。
- \(X\) は複素射影空間へ正則に埋め込める。
- \(X\) は正値正則線束を持つ。
- \(X\) は、\([\omega/(2\pi)]\) が整数係数コホモロジーから来るようなKähler形式 \(\omega\) を持つ。 \[ \boxed{ \text{射影性} \Longleftrightarrow \text{正値線束} \Longleftrightarrow \text{整なKähler類} } \] この同値は、代数幾何的に見える射影性を、線束の曲率という微分幾何的条件で判定している。
12.16 Kählerなら射影的、ではない
整性条件を落としてはいけない。コンパクトKähler多様体が全て射影的であるわけではない。
複素トーラス \[ X=\mathbb C^n/\Lambda \] は平坦Kähler計量を持つ。しかし射影的であるためには、正値線束、同値に適切な整数 \((1,1)\) 類が必要である。そのような極性を持つ複素トーラスをアーベル多様体という。
複素次元 \(n\ge2\) の一般の複素トーラスでは \[ \operatorname{NS}(X) = H^{1,1}(X)\cap \operatorname{im}\bigl( H^2(X;\mathbb Z)\to H^2(X;\mathbb C) \bigr) =0 \] となるため、正の整数 \((1,1)\) 類を持たず、アーベル多様体ではない。対照的に、複素次元 \(1\) の複素トーラスは全て射影的である。これらの主張は第14章で格子上のRiemann形式を使って導く。
ここで条件の役割が分かれる。
- Kähler性は、正定値な閉実 \((1,1)\)-形式の存在をいう。
- 射影性は、そのKähler類を整数格子に合わせられることまで要求する。
局所微分幾何だけでは見えない算術的な離散条件が、射影性との境界を作っている。
12.17 次の問い:解析的対象と代数的対象はどこまで一致するか
Kodaira埋め込み定理により、正値線束を持つコンパクト複素多様体は射影空間の正則部分多様体として実現された。
しかし、正則方程式で定まる部分多様体は、自動的に斉次多項式方程式で定まる代数多様体なのだろうか。正則線束や連接解析層は、代数的な線束や連接層とどこまで一致するのだろうか。
ここで複素解析と代数幾何の境界へ入る。次章では、Chowの定理とGAGAを区別して述べ、 \[ \text{解析的} \quad\text{と}\quad \text{代数的} \] が射影的という仮定の下でなぜ強く一致し、非コンパクトな場合にはなぜ一致しないかを調べる。