第IV部 Reynolds数・無次元化・スケール

時間尺度、項の大きさ、模型相似、PDEの対称性を一つの構造として見る

11 Reynolds数を二つの時間尺度から導く

この章で知りたいこと

なぜ移流時間と粘性時間を比べるのか。大きいReは何を意味し、何を意味しないのか。

移流が距離Lを運ぶ時間と、粘性が同じ距離を拡散する時間の比がReynolds数である。

図10 移流が距離Lを運ぶ時間と、粘性が同じ距離を拡散する時間の比がReynolds数である。

代表長さを L、代表速度を U とする。移流で距離 L を進む時間は距離/速度である。粘性拡散では L² が νt と同程度になる。

\[ T_{\mathrm{adv}}\sim\frac{L}{U},\qquad T_{\mathrm{visc}}\sim\frac{L^2}{\nu} \]

\[ \frac{T_{\mathrm{visc}}}{T_{\mathrm{adv}}}=\frac{UL}{\nu}=\mathrm{Re} \]

この比を見る理由は、速度差が移流で運ばれる前に粘性が均すか、それとも粘性が均す前に移流が構造を運ぶかを判定したいからである。Reが小さいと粘性の応答が相対的に速く、Reが大きいと移流が先行しやすい。

方程式の項の比からも導く

\[ (\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u}\sim\frac{U^2}{L},\qquad \nu\Delta\boldsymbol{u}\sim\frac{\nu U}{L^2} \]

\[ \frac{\text{inertia}}{\text{viscosity}}\sim\frac{U^2/L}{\nu U/L^2}=\frac{UL}{\nu}=\mathrm{Re} \]

重要な限定

Reが大きいことは乱流を保証しない。形状、境界条件、初期撹乱、線形・非線形安定性、観測時間が関係する。Reは項の相対規模を表すが、流れの状態を一語で決める判定器ではない。

確認問題

同じ流体・同じ形の模型を長さ1/6にした。Reを同じに保つには速度を何倍にするか。

解答と意味

速度を6倍にする。ULを一定に保つ必要がある。

小さい模型を同じReで動かすには速く流す。この模型相似は、後のPDEスケール対称性と同じ積ULの不変性を映す。

12 無次元化

この章で知りたいこと

単位を消すと何が見えるのか。Reynolds数はどの係数として現れるのか。

無次元変数に星印を付ける。時間尺度には移流時間 L/U を使い、圧力尺度には密度を除いた U² を使う。

\[ \boldsymbol{x}=L\boldsymbol{x}^{*},\quad \boldsymbol{u}=U\boldsymbol{u}^{*},\quad t=\frac{L}{U}t^{*},\quad p=U^2p^{*} \]

微分演算子は逆の尺度を持つ。

\[ \nabla=\frac{1}{L}\nabla^{*},\qquad \partial_t=\frac{U}{L}\partial_{t^{*}},\qquad \Delta=\frac{1}{L^2}\Delta^{*} \]

各項へ代入する。

\[ \partial_t\boldsymbol{u}=\frac{U^2}{L}\partial_{t^{*}}\boldsymbol{u}^{*} \]

\[ (\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u}=\frac{U^2}{L}(\boldsymbol{u}^{*}\cdot\nabla^{*})\boldsymbol{u}^{*} \]

\[ \nabla p=\frac{U^2}{L}\nabla^{*}p^{*},\qquad \nu\Delta\boldsymbol{u}=\frac{\nu U}{L^2}\Delta^{*}\boldsymbol{u}^{*} \]

全体を U²/L で割ると、慣性項の係数は1、粘性項の係数だけが1/Reとなる。

\[ \partial_{t^{*}}\boldsymbol{u}^{*}+(\boldsymbol{u}^{*}\cdot\nabla^{*})\boldsymbol{u}^{*}=-\nabla^{*}p^{*}+\frac{1}{\mathrm{Re}}\Delta^{*}\boldsymbol{u}^{*} \]

無次元化は単位を消すだけではない。異なる大きさ・速度・流体の実験を、同じ無次元方程式で比較できるようにする。Reが等しく、形状と無次元境界条件も等しければ、力学的相似が期待できる。