1. 有理点を探す問いを、作る問いへ変える

1.0 なぜ実数解や整数解ではなく、有理数解なのか

同じ方程式でも、どの数の範囲で解を探すかによって問題の性格は変わる。実数上では曲線は連続な図形になり、主な問いは枝の形や連結性である。整数点は離散的だが、直線の傾きや交点を計算すると割り算が現れ、整数の範囲からすぐ外へ出る。有理数は整数より広く、しかも加減乗除で閉じている。したがって、有理点二つを通る直線を引き、その交点を計算する操作は有理数の世界に留まる。

つまり \(\mathbb Q\) は、Diophantine 方程式の離散的な難しさを残しながら、曲線の幾何的操作を代数として実行できる自然な舞台である。整数点も重要だが、まず有理点群を理解し、その中で整数座標を持つ点を探す方が構造を利用できる。

最初に扱う方程式は

\[ E_1:\qquad y^2=x^3-2 \]

である。整数を少し代入すると、\(x=3\) で右辺は \(27-2=25\) だから

\[ P=(3,5) \]

が見つかる。では、これ以外の有理点はあるだろうか。

分母を \(1000\) まで許して全探索する、という方針は本質的でない。有理数の分子・分母には上限がなく、一点も見つからなかったとしても「存在しない」とは結論できないからである。必要なのは候補を増やす探索ではなく、既知の解から新しい解を正確に作る仕組みである。

1.1 直線と三次曲線は三点で交わる

曲線上の異なる二点

\[ P=(x_1,y_1),\qquad Q=(x_2,y_2) \]

を通る直線の傾きを

\[ m=\frac{y_2-y_1}{x_2-x_1} \]

とする。この直線は \(y=m(x-x_1)+y_1\) である。これを

\[ y^2=x^3+Ax+B \]

へ代入すると

\[ \{m(x-x_1)+y_1\}^2=x^3+Ax+B \]

となる。右辺から左辺を引けば、\(x\) の最高次数が3の方程式である。その三根を \(x_1,x_2,x_3\) とすると、\(x^2\) の係数を比較して

\[ x_1+x_2+x_3=m^2, \]

したがって

\[ x_3=m^2-x_1-x_2 \]

を得る。係数が有理数で、二根 \(x_1,x_2\) が有理数なら、残る \(x_3\) も有理数である。三番目の交点を \(R=(x_3,y_3)\) とし、それを \(x\) 軸に関して反転した点を

\[ P+Q=(x_3,-y_3) \]

と定める。反転は単なる見栄えの選択ではない。「一直線上の三交点の和を単位元 \(\mathcal O\) とする」規則を採用すると、第三交点 \(R\) について

\[ P+Q+R=\mathcal O \]

でなければならない。したがって \(P+Q=-R\) となり、\(y\) 座標の符号を反転する操作が強制される。この約束により、後で導入する無限遠点が単位元になり、垂直に並ぶ \(P,-P\) の和も \(\mathcal O\) になる。

曲線上の二点を通る直線、第三交点、その反転としての和

曲線上の二点を通る直線、第三交点、その反転としての和

1.2 一点しかないときは接線を使う

\(Q\) を \(P\) に近づけると、割線の傾きは接線の傾きへ近づく。方程式を暗黙微分すると

\[ 2y\frac{dy}{dx}=3x^2+A, \]

ゆえに \(y_P\ne0\) なら

\[ m=\left.\frac{dy}{dx}\right|_P =\frac{3x_P^2+A}{2y_P}. \]

この接線と曲線の第三交点を反転して \(2P=P+P\) とする。

主例では \(A=0\), \(P=(3,5)\) だから

\[ m=\frac{3\cdot3^2}{2\cdot5}=\frac{27}{10}. \]

先ほどの根と係数の関係で \(x_1=x_2=3\) と置けば

\[ \begin{aligned} x_{2P} &=m^2-2x_P\\ &=\left(\frac{27}{10}\right)^2-6\\ &=\frac{729}{100}-\frac{600}{100}\\ &=\frac{129}{100}. \end{aligned} \]

反転後の \(y\) 座標は

\[ \begin{aligned} y_{2P} &=m(x_P-x_{2P})-y_P\\ &=\frac{27}{10}\left(3-\frac{129}{100}\right)-5\\ &=\frac{27}{10}\cdot\frac{171}{100}-\frac{5000}{1000}\\ &=\frac{4617-5000}{1000}\\ &=-\frac{383}{1000}. \end{aligned} \]

したがって

\[ 2P=\left(\frac{129}{100},-\frac{383}{1000}\right). \]

実際、両辺を通分すれば

\[ \left(-\frac{383}{1000}\right)^2 =\left(\frac{129}{100}\right)^3-2 =\frac{146689}{1000000} \]

である。整数点から、分母を持つ新しい点が幾何学的操作だけで現れた。

点 P における接線と、第三交点の反転として得られる 2P

点 P における接線と、第三交点の反転として得られる 2P

さらに同じ公式で \(3P=P+2P\) を作れる。正確な値は

\[ 3P= \left( \frac{164323}{29241}, -\frac{66234835}{5000211} \right). \]

分母は急速に大きくなる。しかしこれは丸め誤差ではなく、すべて正確な有理数である。「分数を総当たりする問い」は「点を足して生成する問い」へ変わった。

なお「楕円曲線」という名称は、実グラフが楕円形だからではない。歴史的には楕円の弧長から生じる楕円積分を逆に解く楕円関数と、複素数上のこの曲線が結びついたことに由来する。

1.3 どの三次式でもよいわけではない

短 Weierstrass 形

\[ E:y^2=x^3+Ax+B \]

に対して \(F(x,y)=y^2-x^3-Ax-B\) と置く。曲線が交差したり尖ったりする特異点では

\[ F=0,\qquad F_x=-3x^2-A=0,\qquad F_y=2y=0 \]

が同時に成り立つ。\(F_y=0\) から \(y=0\)、残り二式から

\[ x^3+Ax+B=0,\qquad 3x^2+A=0 \]

となる。つまり三次多項式とその導関数が共通根を持つ場合、すなわち重根がある場合に特異になる。これを係数だけで表した条件が

\[ 4A^3+27B^2\ne0 \]

である。楕円曲線の判別式を

\[ \Delta=-16(4A^3+27B^2) \]

とする規約では、非特異条件は \(\Delta\ne0\) である。主例の判別式は \(-1728\) で、特異点を持たない。

ここまでで分かったこと

三次曲線では、直線との交点を数える三次方程式が、新しい有理点を作る。接線を使えば一点からでも点を増やせる。

まだ分からないこと

この「加法」は本当に単位元・逆元・結合則を持つのか。また、作った点はいつか元へ戻るのか、無限に増えるのか。

次に必要になる発想

縦線と曲線の「第三交点」が見えない問題を解決し、曲線を群として閉じる。

理解確認

  1. \(P=(x,y)\) が無限位数なら、なぜ \(P,2P,3P,\ldots\) は無限個の異なる点か。
  2. 二点の座標が有理数なら第三交点も有理数になる理由を、三次方程式の根で説明せよ。

解答。 1. \(mP=nP\)(\(m>n\))なら \((m-n)P=\mathcal O\) となり、\(P\) が有限位数になって矛盾する。2. 三次方程式の根の和が有理係数で表され、既知の二根を引けば第三根も有理数になる。