4. 各素数で曲線の有限な影を見る
整数係数の式を素数 \(p\) で割った余りだけにすると、\(x,y\) は有限体 \(\mathbf F_p\) の \(p\) 個の値しか取らない。大域的な有理数問題を、有限個ずつ調べられる剰余体上の影へ投影するのである。これは前章の \(\mathbb Q_p\) 上の局所可解性とは別の操作で、目的も異なる。ここでは各素数から \(L\) 関数の係数を取り出す。
4.1 分母を持つ点をどう mod \(p\) へ落とすか
整数 \(b\) が \(p\) で割れなければ、\(\mathbf F_p\) では逆元 \(b^{-1}\) があるため
\[ \frac{a}{b}\bmod p=(a\bmod p)(b^{-1}\bmod p) \]
と定義できる。主例の
\[ 2P=\left(\frac{129}{100},-\frac{383}{1000}\right) \]
を \(p=7\) で還元しよう。\(100\equiv2\) の逆元は4、\(1000\equiv6\) の逆元は6だから
\[ x\equiv3\cdot4\equiv5,\qquad y\equiv2\cdot6\equiv5\pmod7. \]
実際、\(5^2\equiv5^3-2\equiv4\pmod7\) なので \((5,5)\in E_1(\mathbf F_7)\) である。
では分母が \(p\) で割れる場合はどうするか。アフィン座標だけで無理に割らず、点を整数の射影座標 \([X:Y:Z]\) で表し、三座標を mod \(p\) にする。共通因子を除いた座標なら三つが同時に0にはならない。良い還元の素数では、この方法で
\[ \operatorname{red}_p:E(\mathbb Q)\longrightarrow E(\mathbf F_p) \]
という群準同型が定まる。\(Z\equiv0\pmod p\) となる点は無限遠点 \(\mathcal O\) へ落ちることがある。異なる有理点が同じ有限体上の点へ落ちることもあるので、この写像だけから rank を読み取ることはできない。
主例を \(p=5\) で数えてみよう。平方 \(y^2\) の値は
\[ 0^2=0, 1^2=1, 2^2=4, 3^2=4, 4^2=1\pmod5. \]
各 \(x\) で \(x^3-2\) を計算すると次の表になる。
| \(x\) | \(x^3-2\pmod5\) | 対応する \(y\) | 個数 |
|---|---|---|---|
| 0 | 3 | なし | 0 |
| 1 | 4 | 2, 3 | 2 |
| 2 | 1 | 1, 4 | 2 |
| 3 | 0 | 0 | 1 |
| 4 | 2 | なし | 0 |
アフィン点は5個。無限遠点 \(\mathcal O\) を加えて
\[ N_5=\#E_1(\mathbf F_5)=6 \]
である。\(p=11\) でも点は連続曲線ではなく有限個の格子点として現れる。

4.2 良い還元と悪い還元
係数を mod \(p\) にしても滑らかさが保たれるのは \(p\nmid\Delta\) のときで、これを良い還元という。\(p\mid\Delta\) では重根や特異点が現れ得るため悪い還元と呼ぶ。主例は \(\Delta=-1728=-2^6 3^3\) なので、悪い素数は2と3である。
悪い素数を無視してよいわけではない。後の \(L\) 関数では局所因子が変わる。最小 Weierstrass 模型に対し、乗法的還元なら \((1-a_p\,p^{-s})^{-1}\)(\(a_p=\pm1\))、加法的還元なら因子を1とする。有限個の悪い素数は収束の大勢を変えないが、導手、関数等式、強い BSD の定数には不可欠である。
4.3 なぜ点の配置でなく個数 \(N_p\) を見るのか
有限体上では座標や群構造の全情報を保存することもできる。それでもまず個数を数えるのは、\(N_p\) が Frobenius 写像の固定点数であり、曲線ごと・素数ごとに比較できる一つの整数へ圧縮されるからである。後で見るように、\(\mathbf F_{p^n}\) 上の点数をすべて集めても、楕円曲線の場合は二次多項式 \(1-a_pT+pT^2\) に整理される。
ここで捨てた情報が無意味なのではない。\(L\) 関数が読む特定の影として、Frobenius の trace を抽出しているのである。これは descent の局所条件から rank の上界を作る経路とは異なる。点数データは Euler 積を通じて解析的 rank へ向かう。
4.4 平均からの揺らぎ \(a_p\)
Hasse の定理は良い素数で
\[ |N_p-(p+1)|\le2\sqrt{p} \]
と述べる。そこで
\[ a_p=p+1-N_p \]
と定めれば
\[ |a_p|\le2\sqrt{p}. \]
なぜ中心が \(p\) でなく \(p+1\) なのか。最も単純な射影曲線 \(\mathbf P^1\) には、\(p\) 個のアフィン座標に無限遠点を加えた \(p+1\) 個の点がある。楕円曲線の局所ゼータ関数でも、\(1-T\) と \(1-pT\) がこの基準部分を担い、残る二次式が曲線固有のずれを担う。したがって \(N_p\) はおよそ \(p+1\) 個で、\(a_p\) はそこからの符号付きの揺らぎを抽出する。先ほどは \(N_5=6\) なので \(a_5=5+1-6=0\) である。\(p=7\) では \(N_7=7\)、したがって \(a_7=1\) となる。

Frobenius の二つの固有値 \(\alpha_p,\beta_p\) が
\[ \alpha_p+\beta_p=a_p,\qquad \alpha_p\beta_p=p, \]
を満たし、Hasse の評価は \(|\alpha_p|=|\beta_p|=\sqrt{p}\) の帰結として理解できる。「何に作用する固有値か」は、次章で局所ゼータ関数を導入した後に明示する。
証明の骨格も見ておこう。有限体上の点の座標を \(p\) 乗する Frobenius 写像 \(\pi:(x,y)\mapsto(x^p,y^p)\) を考える。\(\mathbf F_p\) 上の点はちょうど \(\pi(P)=P\) となる点なので、\(N_p\) は写像 \(1-\pi\) の核の大きさ、適切にはその次数として表される。自己準同型の次数を二次形式と見て、その偏極を
\[ \langle\phi,\psi\rangle =\deg(\phi+\psi)-\deg\phi-\deg\psi \]
と置く。この形式は正定値で、Cauchy–Schwarz 型評価
\[ |\langle\phi,\psi\rangle|^2 \le 4\deg\phi\deg\psi \]
を満たす。\(\deg\pi=p\)、\(\deg(1-\pi)=N_p\) なので
\[ a_p=p+1-N_p=\langle1,\pi\rangle. \]
ここで上の評価を \(\phi=1,\psi=\pi\) に適用すると
\[ |p+1-N_p|\le2\sqrt{p} \]
が出る。次数形式の正定値性と Cauchy–Schwarz 型評価の証明には、楕円曲線の自己準同型環と分離可能次数が必要である。本教材ではこの二点を発展事項として用い、「点数を Frobenius の固定点数へ翻訳し、次数形式を評価する」という論理だけを押さえる。
ここで扱った \(E(\mathbf F_p)\) は有限体上の点集合である。\(\mathbb Q_p\) 上の点、すべての場所での局所可解性、torsor に対する局所・大域原理とは区別する。これらは強い BSD の \(\Sha\) を導入するときに改めて接続する。
ここまでで分かったこと
各良い素数で有限個の点を数え、曲線固有の揺らぎ \(a_p\) を得られる。Hasse の定理はその大きさを厳しく制御する。
まだ分からないこと
一つの \(p\) の影だけでは大域的 rank は決まらない。無数の \(a_p\) をどう統合するかが残る。
次に必要になる発想
素数ごとの情報を、Euler 積で一つの解析関数へ圧縮する。
理解確認
- \(N_p=p+1\) のとき \(a_p\) はいくつか。
- \(N_p\) に無限遠点を含め忘れると \(a_p\) はどうずれるか。
- \(E(\mathbf F_p)\) と \(E(\mathbb Q_p)\) は何が違うか。
解答。 1. \(a_p=0\) で、平均的中心からずれていない。2. \(N_p\) を1小さく数えるため、\(a_p=p+1-N_p\) を1大きく誤る。3. 前者は mod \(p\) の有限体上の点、後者は全 \(p\)-冪精度を持つ \(p\)-進体上の点である。点数と局所可解性で役割も異なる。