2. 無限遠点を加えると、点は群になる

曲線は上下対称だから、\(P=(x,y)\) に対し \(-P=(x,-y)\) も曲線上にある。二点を結ぶ直線は垂直で、通常の \(xy\) 平面では第三交点がない。ここで単位元になる点 \(\mathcal O\) が必要になる。

2.1 射影化は人工的な付け足しではない

射影平面では、ゼロでない三つ組を比例まで同一視する:

\[ [X:Y:Z]\sim[\lambda X:\lambda Y:\lambda Z]\qquad(\lambda\ne0). \]

\(Z\ne0\) なら \(x=X/Z, y=Y/Z\) として通常の平面へ戻れる。なぜ \(Z=0\) が「無限遠」なのかも、直線で確認できる。たとえば傾き \(m\) の平行線 \(y=mx+b\) は、射影化すると

\[ Y=mX+bZ \]

となる。\(Z=0\) では切片 \(b\) が消え、すべての平行線が同じ方向点 \([1:m:0]\) を通る。\(Z=0\) は、有限位置では交わらない平行線の方向を記録する境界なのである。

短 Weierstrass 方程式を次数3で斉次化すると

\[ Y^2Z=X^3+AXZ^2+BZ^3. \]

無限遠を表す \(Z=0\) を代入すると \(X^3=0\)、したがって \(X=0\) であり、残る点は比例を除けばただ一つ

\[ \mathcal O=[0:1:0] \]

である。平行線や垂直線も射影平面では無限遠で閉じる。\(\mathcal O\) は計算の穴を埋める便宜的記号ではなく、射影曲線にもともと含まれる点である。

垂直線が射影的な無限遠点 O で閉じ、P と -P の和が O になる模式図

垂直線が射影的な無限遠点 O で閉じ、P と -P の和が O になる模式図

2.2 群の公理

弦接法で次が成り立つ。

  • 閉性:有理点から作った和は有理点である。
  • 単位元:\(P+\mathcal O=P\)。
  • 逆元:\(P+(-P)=\mathcal O\)。
  • 可換性:\(P,Q\) を通る直線は順序によらないので \(P+Q=Q+P\)。
  • 結合則:\((P+Q)+R=P+(Q+R)\)。

最後の結合則だけは図から明らかでない。座標公式を二度ずつ代入して両辺を比較する直接証明は可能だが、計算は長い。そこで、なぜ概念的な証明があるのかを三段階で説明する。

  1. 曲線上の有限個の点へ整数の重みを付けた形式和を divisor(因子)という。たとえば \([P]+[Q]-[R]-[\mathcal O]\) である。形式和の加法は、係数を足すだけなので最初から結合的である。
  2. 曲線上の有理関数は、零点を正、極を負に数えた因子を作る。直線が曲線と \(P,Q,R\) で交わるという事実は、因子の世界では「\([P]+[Q]+[R]\) は基準となる三点分と同値」という関係になる。この同値関係で割った群が Picard 群である。
  3. 点 \(P\) を \([P]-[\mathcal O]\) へ送ると、弦接法の \(P+Q=-R\) が Picard 群の加法と一致する。滑らかな種数1曲線では、この対応が曲線と次数0部分 \(\operatorname{Pic}^0(E)\) を一対一にする。後者はすでに結合的な群なので、曲線上の加法も結合則を継承する。

\(\operatorname{Pic}^0(E)\) を幾何学的に表す対象を Jacobian と呼ぶ。種数1で基点 \(\mathcal O\) を持つ場合、Jacobian は曲線 \(E\) 自身になる。本教材ではこの同一視を定理として使うが、結合則を別の専門語で済ませているのではなく、直線の交点関係を、結合則が明らかな形式和の加法へ移したことが要点である。

「なぜ三次曲線が特別か」への短い答えもここにある。滑らかな平面三次曲線の種数は1で、基点を選ぶと曲線自身が群になる。次数2の滑らかな曲線は種数0で、点があれば有理パラメータ表示へ向かう。次数4以上では一般に種数が上がり、二点と直線だけで閉じた加法を曲線自身に入れることはできない。ただし、その Jacobian には別の群構造がある。

ここまでで分かったこと

\(E(\mathbb Q)\) は無限遠点を含む可換群である。点の加法は人工的な作図規則ではなく、種数1の曲線の幾何に根差している。

まだ分からないこと

この群は有限か無限か。無限なら、点を記述するのに無限個の出発点が要るのか。

次に必要になる発想

「すべての点」を有限個の生成元へ圧縮する Mordell–Weil 定理を見る。

理解確認

  1. 三交点を \(P,Q,R\) とするとき、なぜ和を第三交点 \(R\) そのものではなく \(-R\) と定めるのか。
  2. \(Z=0\) が平行線の方向を表すことを、\(Y=mX+bZ\) から説明せよ。

解答。 1. 一直線上の三交点の和を \(\mathcal O\) とする規則から \(P+Q=-R\) が従う。2. \(Z=0\) では切片 \(b\) が消え、同じ傾き \(m\) の全直線が \([1:m:0]\) を共有する。