付録B 記号・用語・演習と解答
記号と規約
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| \(X\) | 閉・連結・向き付きの滑らかな4多様体 |
| \(P\to X\) | 主 \(SU(2)\) または \(SO(3)\) 束 |
| \(A,F_A\) | 接続とその曲率 |
| \(\mathcal G\) | 指定したソボレフ階数のゲージ群 |
| \(\mathcal M_k\) | 位相数 \(k\) の反自己双対接続のモジュライ空間 |
| \(H_A^i\) | 反自己双対変形複体のコホモロジー |
| \(b_2^+\) | 交点形式の正指数 |
| \(\mathfrak s\) | \(\mathrm{Spin}^c\) 構造 |
| \(W^\pm,L\) | スピノル束と行列式線束 |
本書では \(F_A^+=0\) をASDと呼び、\(\mathrm{YM}(A)=\|F_A\|_{L^2}^2\) とする。向き反転では \(\Lambda^2_+\) と \(\Lambda^2_-\) が交換される。
用語対照
英語は文献検索に必要な初出だけで併記し、本文では日本語を基本とする。
| 本文で使う語 | 文献でよく見る英語 | 区別すべき語 |
|---|---|---|
| 滑らかな構造 | smooth structure | 位相構造、単なる座標表示 |
| 交点形式 | intersection form | 交点数、交点行列 |
| 切断 | section | 節、断面図 |
| 接続、曲率 | connection, curvature | 接続形式という局所表示 |
| ゲージ変換 | gauge transformation | 物理的状態の変化ではなく表示の重複 |
| モジュライ空間 | moduli space | 方程式の解集合そのもの |
| 期待次元 | expected/virtual dimension | 実際の局所次元 |
| コンパクト化 | compactification | コンパクト性そのもの |
| 基本類 \([X]\) | fundamental class | SW基本類 |
| SW基本類 | Seiberg–Witten basic class | 多様体の基本類 \([X]\) |
基礎演習
位相・多様体・ホモロジー
- 実数直線上で \((0,1)\) が開集合であることを、各点のまわりの小区間を用いて確認せよ。\([0,1]\) が開集合でない理由も述べよ。
- 円周から一点を除くと実数直線と同相になる写像を一つ書け。円周全体が実数直線と同相でないことは、コンパクト性から説明せよ。
- 円周を三つの辺で近似し、各頂点の境界が辺の境界で相殺されることから、閉路の境界が0になることを確かめよ。
- トーラス上の経線と緯線が、互いの整数倍ではない二つの1次元ホモロジー類を与える理由を説明せよ。
- \(S^2\times S^2\) の二つの曲面 \(S^2\times\{p\}\) と \(\{q\}\times S^2\) の交点を数え、向きを整合的に選べば交点数が \(+1\) になることを局所座標で確認せよ。
束・接続・曲率
- メビウスの帯を区間上の実直線の族として表し、一周後にベクトルの符号が反転する貼り合わせを書け。円筒との違いを説明せよ。
- 平面で \(e_1(t)=(\cos t,\sin t)\)、\(e_2(t)=(-\sin t,\cos t)\) と置く。一定成分 \((1,0)\) をもつ切断 \(s(t)=e_1(t)\) の通常微分を計算し、基底成分が一定でもベクトルが変化することを示せ。
- \(U(1)\) 接続 \(A=i a(x)\,dx\) に沿う平行切断 \(s\) が \(s'+ia(x)s=0\) を満たすとする。解を積分で書き、閉曲線で得られる位相因子が \(\exp(-i\oint a\,dx)\) になることを示せ。
- 行列値1形式では \(A\wedge A\) が消えないことを、交換しない二つの \(2\times2\) 行列 \(B,C\) と \(A=B\,dx+C\,dy\) を使って確かめよ。
解析・モジュライ空間
- 写像 \(f:\mathbb R^2\to\mathbb R\)、\(f(x,y)=x^2+y^2-1\) の零点集合を求め、各点で微分が全射になることを確かめよ。次に \(g(x,y)=x^2+y^2\) の零点で何が壊れるかを述べよ。
- 行列 \(T=\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\end{pmatrix}\) の核・像・余核を求め、\(\dim\ker T-\dim\operatorname{coker}T\) を計算せよ。
- 円周が平面の回転群で一点の軌道になる例と、原点だけ固定部分群が大きくなる例を比較し、商空間の特異点が安定化部分群と関係することを説明せよ。
基礎演習の解答
- \(x\in(0,1)\) に対し \(\varepsilon<\min\{x,1-x\}\) を取れば \((x-\varepsilon,x+\varepsilon)\subset(0,1)\) である。\(0\in[0,1]\) のどの開区間も負の数を含むため、\([0,1]\) は開でない。
- \(S^1\subset\mathbb R^2\) を \((x,y)\) で表し、北極 \(N=(0,1)\) を除く。北極からの立体射影 \[ \sigma:S^1\setminus\{N\}\longrightarrow\mathbb R, \qquad \sigma(x,y)=\frac{x}{1-y} \] は同相写像である。逆写像は \[ t\longmapsto \left(\frac{2t}{t^2+1},\frac{t^2-1}{t^2+1}\right) \] で、直接代入すれば \(\sigma(\sigma^{-1}(t))=t\) と \(\sigma^{-1}(\sigma(x,y))=(x,y)\) が確認できる。両方とも分母が0にならない範囲で連続なので同相である。一方、円周全体はコンパクトだが実数直線はコンパクトでなく、同相写像はコンパクト性を保存する。
- 向き付けた辺を \([v_0v_1]+[v_1v_2]+[v_2v_0]\) とすると、境界は \((v_1-v_0)+(v_2-v_1)+(v_0-v_2)=0\) である。
- それぞれを横切る閉曲線との交点数を取ると、一方に対して \((1,0)\)、他方に対して \((0,1)\) を与え、整数倍では一致しない。
- 交点は \((q,p)\) の一点である。\(q\) の近くで第一因子 \(S^2\) の正向き局所座標を \((u_1,u_2)\)、\(p\) の近くで第二因子 \(S^2\) の正向き局所座標を \((v_1,v_2)\) と取る。積多様体 \(S^2\times S^2\) の向きは \[ (\partial_{u_1},\partial_{u_2},\partial_{v_1},\partial_{v_2}) \] で表される。曲面 \(A=S^2\times\{p\}\) の接平面の正向き基底は \((\partial_{u_1},\partial_{u_2})\)、曲面 \(B=\{q\}\times S^2\) の接平面の正向き基底は \((\partial_{v_1},\partial_{v_2})\) である。交点符号を判定するためにこの順に並べると \[ (\partial_{u_1},\partial_{u_2},\partial_{v_1},\partial_{v_2}) \] となり、積向きの基底そのものである。従って比較行列は単位行列で、行列式は \(+1\) である。もし二つの曲面の順序を入れ替えれば4本の基底の並びは2本ずつの交換になり、今回の4次元では符号は変わらないが、向きを反転した因子を使えば符号が反転する。
- \((0,v)\sim(1,-v)\) がメビウスの帯、\((0,v)\sim(1,v)\) が円筒である。前者にはどこでも消えない連続な「正向き」の単位切断を一周整合的に選べない。
- \(s'(t)=e_2(t)\) である。成分の微分だけなら0だが、動く基底の微分が残る。接続はこの基底変化を補正する。
- \(s(x)=s(x_0)\exp(-i\int_{x_0}^x a(t)dt)\)。始点へ戻ると積分が閉曲線積分になり、ホロノミーが得られる。
- 例えば \[ B=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}, \qquad C=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix} \] と取る。このとき \[ BC=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}, \qquad CB=\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}, \qquad BC-CB=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}\ne0. \] 従って \(A=B\,dx+C\,dy\) なら \(A\wedge A=(BC-CB)\,dx\wedge dy\) は非零であり、非可換理論で二次項が必要になる。
- \(f^{-1}(0)=S^1\) で、\(df=(2x,2y)\) は円周上で非零だから全射である。\(g^{-1}(0)=\{0\}\) では \(dg_0=0\) となり、正則値定理を使えない。
- 核は \(\operatorname{span}(0,0,1)\)、像は \(\mathbb R^2\)、余核は0で、指数は1である。
- 一般点の安定化部分群は自明だが、原点は全回転で固定される。軌道の次元が跳ぶ場所では、商の局所模型も通常のユークリッド空間から外れうる。
確認問題:基本
- \(Q_{S^2\times S^2}\) が双曲形式 \(H\) になるよう、二つの因子の類の交点を計算せよ。
- \(*e^{13}=-e^{24}\) の符号を、\(e^{13}\wedge *e^{13}=d\mathrm{vol}\) から確認せよ。
- エネルギー恒等式から、\(k<0\) のときに等号を達成する方程式がどちら側になるかを求めよ。
- \(d_A^+d_A=0\) の証明でASD条件を使う箇所を特定せよ。
- 指数が0でもモジュライが空または特異になりうる理由を \(H_A^0,H_A^2\) で説明せよ。
- 1パラメータ モジュライのコンパクト化に余分な境界が出る三つの原因を挙げよ。
- SW方程式が可換接続を使いながら非線形である項を二つ挙げよ。
- Coulombスライス条件 \(d_A^*a=0\) が軌道方向への直交条件であることを、\(L^2\) 内積で示せ。
- \(X=\mathbb{CP}^2\)、\(c_2(P)=1\) のとき、ASD複体の期待次元を計算せよ。
- \(H_A^2\ne0\) のとき、Kuranishi写像の値域がなぜ \(H_A^2\) になるかを説明せよ。
- 位相数を一つ落としたバブリング層が、主層(最上位の層)に比べて概略余次元 \(4\) になる理由を説明せよ。
- \(b_2^+=1\) で壁越えが起こりうる理由を、1パラメータ族と余次元の観点から述べよ。
章別確認問題
第I部:交点形式と滑らかな構造
- \(\mathbb{CP}^2\#\overline{\mathbb{CP}}^{2}\) の交点形式を標準基底で書き、\(\mathbb{CP}^2\#\mathbb{CP}^2\) の交点形式と比較せよ。
- \(H=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}\) がユニモジュラーで 不定値 であることを確認せよ。
- \(E_8\) 格子が偶格子であることと、対角格子 \(\langle 1\rangle^{\oplus 8}\) が奇格子であることを比較せよ。
- 「同相でない」と「微分同相ではない」の違いを、滑らかな構造の比較対象を明示して説明せよ。
第II部:接続・曲率・反自己双対方程式
- 局所接続形式 \(A\) に対し、曲率 \(F_A=dA+A\wedge A\) の二次項がゲージ変換則と両立する理由を一文で説明せよ。
- 4次元で \(\Lambda^2=\Lambda^2_+\oplus\Lambda^2_-\) が同じ階数 \(3+3\) に分かれることを、\(\binom42\) から確認せよ。
- Chern–Weil数 \(\int_X\operatorname{tr}(F_A\wedge F_A)\) が接続の連続変形で変わらない理由を、完全形式という語を使って説明せよ。
- ASD方程式がYang–Mills方程式を満たすことを、Bianchi恒等式から説明せよ。
第III部:モジュライ空間を作る
- ゲージ軌道の接空間が \(\operatorname{im}d_A\) になることを、無限小ゲージ変換から導け。
- ASD変形複体 \[ \Omega^0(\operatorname{ad}P)\xrightarrow{d_A} \Omega^1(\operatorname{ad}P)\xrightarrow{d_A^+} \Omega^2_+(\operatorname{ad}P) \] が複体になるために、どこで \(F_A^+=0\) を使うかを説明せよ。
- \(H_A^0,H_A^1,H_A^2\) を、それぞれ安定化群、接空間に相当する一次変形、障害という言葉で説明せよ。
- 期待次元が正でも、実際のモジュライ空間が滑らかな多様体とは限らない理由を述べよ。
- \(X=K3\)、\(b_1=0\)、\(b_2^+=3\)、\(c_2(P)=1\) として、単純なASD 指数公式 \(8k-3(1-b_1+b_2^+)\) に代入せよ。
- Kuranishi模型で \(d\kappa_0=0\) でも \(\kappa^{-1}(0)\) が線形空間にならない例を一つ作れ。
第IV部:コンパクト化と不変量
- バブリングで失われる情報と、Uhlenbeckコンパクト化が記録する情報を分けて述べよ。
- エネルギー密度模型 \(e_\rho(r)=C\rho^4/(\rho^2+r^2)^4\) で、\(r=\rho s\) と置くと \(\rho\) が消える理由を説明せよ。
- 0次元モジュライ空間で向きが必要な理由を、符号付き数え上げという言葉で説明せよ。
- 正次元モジュライ空間で \(\mu\)-類を挿入する理由を、次元合わせから説明せよ。
- Donaldson対角化定理とDonaldson多項式不変量の出力の違いを、表を使わずに文章で説明せよ。
- 平滑化可能性の障害と異種滑らかな構造の組の証明で、それぞれ何を仮定し、何を否定するのかを比較せよ。
第V部:Seiberg–Witten理論
- \(\mathrm{Spin}^c\) 構造の行列式線束 \(L\) が満たす合同条件を述べよ。
- \(q(\Phi)\) が二次写像であること、Clifford同一視により \(i\Lambda^2_+\) の切断として読めること、\(S^1\) ゲージ変換に対して不変であることを説明せよ。さらに \(A\) を \(\det W^+\) の接続とするとゲージ作用に係数2が現れる理由を述べよ。
- Weitzenböck公式がSW コンパクト性に効く理由を、\(|\Phi|\) の上界という観点から説明せよ。
- 可約解を避けるために摂動や部屋が必要になる理由を述べよ。
- Donaldson理論とSW理論で、コンパクト性の難しさがどのように違うかを比較せよ。
- Kähler曲面上でSW方程式が複素幾何の方程式へ分解される、という主張を引用定理として使う場合に明示すべき仮定と結論を挙げよ。
- 随伴不等式が、曲面の種数、自己交点、SW基本類をどう結びつけるかを言葉で説明せよ。
- TaubesのSW=Grを本書で完全証明しない場合、最低限説明すべき証明アーキテクチャを三点挙げよ。
追加確認問題:Donaldson対角化の一本道
- 負定値単連結4多様体上の \(SU(2)\) 束で \(c_2(E)[X]=1\) とする。期待次元が5になることを、\(b_1=0,b_2^+=0\) から計算せよ。
- \(E\cong L\oplus L^{-1}\) と分裂する可約接続があるとき、\(c_2(E)=1\) から \(c_1(L)^2=-1\) が出ることをWhitney積公式で示せ。
- 負定値ユニモジュラー格子で、長さ \(-1\) の符号対が少なくとも階数個あれば、格子が \(-I\) になる理由を説明せよ。
解答指針:基本
- \(A=[S^2\times\{p\}]\)、\(B=[\{q\}\times S^2]\) と置く。\(A\) と \(B\) は \((q,p)\) の一点で横断的に交わり、積の向きと整合させると \(A\cdot B=+1\) である。一方、\(A\) は第二因子方向へ、\(B\) は第一因子方向へ押し出せるので \(A^2=B^2=0\)。従って基底 \((A,B)\) で交点行列は \(\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}\) になる。
- 向きを \(e^{1234}\) で固定する。\(e^{13}\wedge e^{24}=e^1\wedge e^3\wedge e^2\wedge e^4=-e^{1234}\) なので、\(e^{13}\wedge(-e^{24})=e^{1234}\) である。したがって \(*e^{13}=-e^{24}\) とすれば \(\alpha\wedge *\alpha=|\alpha|^2d\mathrm{vol}\) に合う。
- 本書の規約では \[ 8\pi^2k=\|F_A^-\|^2-\|F_A^+\|^2,\qquad \operatorname{YM}(A)=\|F_A^+\|^2+\|F_A^-\|^2 \] である。\(k<0\) なら \[ \|F_A^+\|^2=\|F_A^-\|^2-8\pi^2k =\|F_A^-\|^2+8\pi^2|k| \] なので \[ \operatorname{YM}(A) =2\|F_A^-\|^2+8\pi^2|k| \ge 8\pi^2|k|. \] 等号は \(\|F_A^-\|=0\)、すなわち \(F_A^-=0\) のときに限る。従って \(k<0\) では自己双対接続側を使う。\(k>0\) では同じ計算で \(F_A^+=0\) が等号条件である。
- \(d_A^+d_A\phi=(d_A^2\phi)^+=[F_A,\phi]^+\) を計算する段階でASD条件を使う。\(F_A^+=0\) なら \([F_A,\phi]^+=0\) である。Bianchi恒等式 \(d_AF_A=0\) は曲率の恒等式であり、この合成が0である理由そのものではない。
- 指数は \(\dim H_A^1-\dim H_A^0-\dim H_A^2\) という差である。指数が0でも \(H_A^1\) と \(H_A^2\) が同時に非零なら局所解集合はKuranishi写像で切られ、空にも特異にもなりうる。\(H_A^0\) が非零なら商にも安定化群由来の特異性が残る。
- 余分な境界として、可約解が現れる場合、バブリングでエネルギーが点へ逃げる場合、横断性が失敗して期待次元通りのコボルディズムにならない場合がある。1パラメータ族では、これらが端点以外の境界として数え上げの不変性を壊す。
- 一つはDirac作用素 \(D_A\Phi\) の \(A\) 依存性で、接続を変えるとスピノルの微分も変わる。もう一つは曲率方程式の \(q(\Phi)\) で、\(\Phi\Phi^*\) のトレース0部分という二次項である。接続が \(U(1)\) で可換でも、連成方程式全体は線形ではない。
- \(\langle a,d_A\phi\rangle=\langle d_A^*a,\phi\rangle\) なので、\(d_A^*a=0\) は全ての無限小ゲージ方向 \(d_A\phi\) に直交する条件である。実際に \(e^\phi\) で \(A+a\) を動かすと一次項は \(a+d_A\phi\) であり、Coulomb代表を探す線形方程式は \(d_A^*d_A\phi=-d_A^*a\) になる。
- \(b_1=0\)、\(b_2^+=1\) なので \(8\cdot1-3(1+1)=2\) である。
- 無限次元の可解方向は右逆で解けるが、\(d_A^+\) の余核方向だけは線形化で消せないため、その有限次元余核へ射影した方程式が残る。
- ASD期待次元を \(d(k)=8k-C\) と書く。ここで \(C=3(1-b_1+b_2^+)\) は \(X\) にだけ依存する定数である。位相数が一つ落ちた背景解の次元は \[ d(k-1)=8(k-1)-C=d(k)-8 \] である。Uhlenbeck境界では、失われた1単位のエネルギーの位置 \(x\in X\) をさらに記録するので4次元が戻り、概略次元は \(d(k)-8+4=d(k)-4\) になる。従って主層と比べた余次元は4である。これは尺度や内部向きなどを完全に記録する貼り合わせパラメータの次元計算ではなく、Uhlenbeckコンパクト化の境界層が主層より低くなる基本的な見積もりである。
- 可約の壁が概略余次元 \(b_2^+\) で、\(b_2^+=1\) では1パラメータ経路が一般に壁を横切るからである。
解答指針:章別問題
- \(\mathbb{CP}^2\#\overline{\mathbb{CP}}^{2}\) では、\(\mathbb{CP}^2\) 側の直線類を \(h\)、向き反転側の例外類を \(e\) と取ると \(h^2=1\)、\(e^2=-1\)、\(h\cdot e=0\) である。従って行列は \(\operatorname{diag}(1,-1)\)。一方、\(\mathbb{CP}^2\#\mathbb{CP}^2\) では二つの直線類がどちらも自己交点 \(+1\) を持つので \(\operatorname{diag}(1,1)\) である。向き反転の有無が符号を変える。
- \(H=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}\) の行列式は \(-1\) なので、双対格子と一致しユニモジュラーである。固有ベクトル \((1,1)\) の固有値は \(1\)、\((1,-1)\) の固有値は \(-1\) だから不定値である。さらに \(Q(a,b)=2ab\) なので偶形式でもある。
- \(E_8\) 格子では基底の自己交点は2で、隣接基底の交差は \(-1\)、その他は0である。任意の整数結合 \(x=\sum a_ie_i\) について \(Q(x,x)\) は対角項 \(2a_i^2\) と交差項 \(2a_ia_jQ(e_i,e_j)\) の和なので偶数になる。対角格子 \(\langle1\rangle^{\oplus8}\) では基底ベクトルの自己交点が1なので奇格子であり、偶奇が整数基底変換で保存されるため両者は同型でない。
- 同相写像は連続写像と連続逆写像による位相圏の同値であり、滑らかさを見ない。微分同相写像は写像と逆写像が滑らかであることを要求する。異種滑らかな構造では、同じ位相空間としては同相だが、滑らかな座標変換を保つ同値は存在しない。したがって「同相でない」と「微分同相ではない」は結論の強さも使う不変量も違う。
- ゲージ変換で \(A\) は \(A^g=g^{-1}Ag+g^{-1}dg\) と非斉次に変わる。\(dA\) だけを曲率とすると \(dg\) を含む余分な項が残る。\(A\wedge A\) を加えた \(F_A=dA+A\wedge A\) ではそれらが相殺され、\(F_{A^g}=g^{-1}F_Ag\) という共変な変換則になる。
- 正規直交余標構 \(e^1,\dots,e^4\) と向き \(e^{1234}\) を取る。ホッジ作用素は \[ *e^{12}=e^{34},\quad *e^{13}=-e^{24},\quad *e^{14}=e^{23} \] および逆向きの三式を満たす。従って自己双対基底は \[ e^{12}+e^{34},\quad e^{13}-e^{24},\quad e^{14}+e^{23}, \] 反自己双対基底は \[ e^{12}-e^{34},\quad e^{13}+e^{24},\quad e^{14}-e^{23} \] である。これで6次元の2形式空間が3次元ずつに分かれることを、単なる階数計算ではなく実際の基底で確認できる。
- 接続の経路 \(A_t\) に沿って微分すると、\(\frac d{dt}\operatorname{tr}(F_{A_t}\wedge F_{A_t})=2d\,\operatorname{tr}(\dot A_t\wedge F_{A_t})\) となる。右辺は完全形式なので、閉多様体上で積分するとStokesの定理により0である。従ってChern-Weil数は接続の変形で変わらない。
- ASDなら \(*F_A=-F_A\) である。Yang-Mills方程式は \(d_A^*F_A=0\) で、\(d_A^*=-*d_A*\) を使うと \(d_A^*F_A=-*d_A(*F_A)=*d_AF_A\) となる。Bianchi恒等式 \(d_AF_A=0\) からこれが消えるので、ASD解はYang-Mills解である。
- ゲージ変換を \(u_t=\exp(t\phi)\) と置き、\(t=0\) で接続の変換式を微分する。局所式では \(A^{u_t}=u_t^{-1}Au_t+u_t^{-1}du_t\) なので、一次項は \([A,\phi]+d\phi=d_A\phi\) である。したがってゲージ軌道の接空間は \(\operatorname{im}d_A\) になる。二次まで見ると \[ u(A+a)-A =a+d_A\phi+[a,\phi]-\frac12[\phi,d_A\phi] +O_{\ge3}(a,\phi) \] であり、本文のCoulomb方程式の符号と同じ規約で整合する。\([\phi,[\phi,a]]\) は \(\phi,\phi,a\) を含む総次数3の項なので、二次までの表示では剰余 \(O_{\ge3}\) に含める。
- \(d_A^+d_A\phi=(d_A^2\phi)^+=[F_A,\phi]^+\) であり、ASD接続では \(F_A^+=0\) だから消える。これはBianchi恒等式ではなく、\(d_A^2\) が曲率との交換子になることと、背景接続がASDであることを使っている。
- \(H_A^0=\ker d_A\) は接続 \(A\) を動かさない無限小ゲージ変換、つまり安定化群のLie代数である。\(H_A^1=\ker d_A^+/\operatorname{im}d_A\) は方程式を一次まで保つ変形をゲージ方向で割った接空間候補である。\(H_A^2=\operatorname{coker}d_A^+\) は線形化で解けない方程式方向で、非線形Kuranishi写像の値域になる。
- 安定化群が非自明なら、同じ解の近くで商が通常の多様体ではなく固定点を持つ商になる。\(H_A^2\) が非零なら線形化が全射でなく、一次解 \(H_A^1\) の中にさらに \(\kappa=0\) という有限次元方程式が残る。従って期待次元が正でも、実際の局所形は滑らかな空間とは限らない。
- \(b_1=0\)、\(b_2^+=3\)、\(k=1\) を代入すると \(8k-3(1-b_1+b_2^+)=8-3(4)=8-12=-4\) である。負の期待次元は負次元の空間を意味せず、一般的な摂動では正則解が空になる方向を示す。
- 例えば \(\kappa:\mathbb R^2\to\mathbb R\)、\(\kappa(x,y)=y^2-x^3\) は \(d\kappa_0=0\) だが、零点集合は原点近くで尖点を持つ。線形項が消えても二次・三次項が局所形を決めるため、Kuranishi零点集合は線形空間とは限らない。
- バブリングで失われるのは、接続列の滑らかな収束と、縮んでいくインスタントンの尺度・向きなどの細部である。Uhlenbeckコンパクト化は、背景側の低い位相数の解と、エネルギーが集中した点および失われた位相数を記録する。ただし縮んだ内部モジュライの全情報を常に境界点として保持するわけではない。
- \(r=\rho s\) と置くと、4次元体積要素は \(r^3dr\) 型なので \(\rho^4s^3ds\) を出す。分子は \(\rho^4\)、分母 \((\rho^2+r^2)^4=\rho^8(1+s^2)^4\) であり、体積要素の \(\rho^4\) と合わせて \(\rho^8/\rho^8\) が相殺する。したがって総エネルギーは尺度に依らず、密度だけが一点へ集中する。
- 0次元モジュライ空間は有限個の点からなる。向きを選ぶと各点の局所符号を \(+1\) または \(-1\) と決められ、符号付き和を取れる。向きがなければ点を単に数えるしかなく、1パラメータ変形で符号反対の点対が生成・消滅する不変性を表現できない。
- 正次元モジュライ空間 \(M\) から数を得るには、\([M]\) と同じ次数のコホモロジー類を評価する必要がある。普遍束 \(\mathbb P\to X\times\mathcal B^*\) から得る典型的な定義は \[ \mu(\alpha)=-\frac14 p_1(\mathbb P)/\alpha \] で、スラント積により \(\alpha\in H_i(X)\) は \(M\) 上の次数 \(4-i\) のコホモロジー類へ送られる。従って点類 \([p]\in H_0(X)\) は次数4、曲面類 \([\Sigma]\in H_2(X)\) は次数2の挿入になる。例えば \(\dim M=4\) なら、\(\mu([p])\) を一つ入れるか、\(\mu([\Sigma_1])\mu([\Sigma_2])\) を入れると0次元まで切り下がり、符号付き交点数 \[ \langle\mu(\alpha_1)\cdots\mu(\alpha_r),[M]\rangle \] が定義できる。次数が足りない場合はまだ正次元の集合が残り、次数が大きすぎる場合は一般位置で空になる。
ここで \(\mu(\alpha)\) の値が常に整数係数で定義されると無条件に断言してはいけない。実際の定義では、使う束が \(SO(3)\) か \(SU(2)\) か、普遍束を基点付きゲージ群で作るか、係数環を有理数に広げるかにより、\(-\frac14p_1\) の整数性の扱いが変わる。本書では次数と挿入の型を本文内で使い、係数の完全な整数性は標準文献の定義条件に従う。
31. Donaldson対角化定理は、滑らかな閉単連結4多様体の定値交点形式が整数上で対角でなければならないという制約を与える。これは形式の実現可能性を排除する定理である。Donaldson多項式不変量は、モジュライ空間と\(\mu\)類を使って滑らかな構造ごとに数や多項式を作り、同じ交点形式を持つ多様体を区別しうる。
32. 平滑化可能性の障害では、位相的多様体 \(X\) に滑らかな構造があると仮定し、Donaldson定理などと矛盾させる。異種滑らかな構造の組では、二つの多様体がどちらも滑らかであること、同相であること、しかし微分同相でないことを別々に示す。前者は「滑らかな構造が存在しない」、後者は「複数存在して区別できる」という主張である。
33. 行列式線束 \(L=\det W^+\) は \(c_1(L)\equiv w_2(TX)\pmod 2\) を満たす。この合同条件により、\(\mathrm{Spin}^c\) 構造は任意の線束選択ではなく、接束の第二Stiefel-Whitney類を整数類で持ち上げるデータになる。
34. 本書のClifford同一視 \(\rho:i\Lambda^2_+\cong\operatorname{Herm}_0(W^+)\) の下で \(\rho(q(\Phi))=(\Phi\Phi^*)_0\) と読む。位相を掛けても \(\Phi\Phi^*\) は変わらないため、\(S^1\) ゲージ変換に対して不変である。\(u\) はスピノルに重み1、行列式に重み2で作用するので、\(A\) が \(\det W^+\) の接続なら \((A,\Phi)\mapsto(A-2u^{-1}du,u\Phi)\) となる。従って \(A\) を \(A+a\) に変えるとスピノル接続には \(\frac12a\) が加わり、Dirac方程式の線形化には \(\frac12\rho(a)\Phi\) が現れる。別規約の式を使う場合は、この係数2、Dirac線形化の係数 \(\frac12\)、曲率方程式の係数を同時に換算する。
35. Weitzenböck公式は \[ D_A^*D_A\Phi =\nabla_A^*\nabla_A\Phi+\frac{s}{4}\Phi+\frac12\rho(F_A^+)\Phi \] である。SW解では \(D_A\Phi=0\) かつ \(F_A^+=q(\Phi)+i\eta\) なので、曲率項には \(\frac12\rho(q(\Phi))\Phi\) が入る。本書の規約では \(\rho(q(\Phi))\Phi=\frac12|\Phi|^2\Phi\) であり、四次の正項が出る。\(\Delta=d^*d\) と置くと \[ \frac12\Delta|\Phi|^2 =\langle\nabla_A^*\nabla_A\Phi,\Phi\rangle-|\nabla_A\Phi|^2 \] であり、\(|\Phi|^2\) の最大点では \(\langle\nabla_A^*\nabla_A\Phi,\Phi\rangle\ge0\) となる。従って \[ \frac14|\Phi|^4 \le \frac{s_-}{4}|\Phi|^2+C|\eta|\,|\Phi|^2 \] という二次不等式が出る。最大点で \(|\Phi|^2=0\) なら上界は自明であり、正なら \(|\Phi|^2\) で割って \(|\Phi|^2\le C(s_-+|\eta|)\) 型の上界が従う。この上界が曲率方程式を通じて \(F_A^+\) を制御し、さらにCoulombゲージと楕円評価で接続の収束部分列を得る入口になる。
36. 可約解では \(\Phi=0\) となり、ゲージ群の安定化群が大きくなる。すると商空間が滑らかな多様体でなくなり、0次元の符号付き数え上げも安定しない。摂動や部屋の指定は、可約が現れる壁を避けて正則なモジュライ空間を作るために必要である。
37. Donaldson側では非可換接続のエネルギー集中により、Uhlenbeckコンパクト化とバブリング層の解析が中心になる。SW側では接続は可換だが、スピノルとの非線形連成があり、Weitzenböck評価でスピノルと曲率を強く抑えられるため、多くの状況でコンパクト性が扱いやすくなる。簡単なのは「線形だから」ではなく、先験的評価が強いからである。
38. 入力として、Kähler構造、どの \(\mathrm{Spin}^c\) 構造を使うか、線束によるひねり、摂動の部屋を明示する必要がある。正準 \(\mathrm{Spin}^c\) 構造では \[ W^+=\Lambda^{0,0}\oplus\Lambda^{0,2} \] と書けるが、線束 \(E\) でひねると \[ W^+=(\Lambda^{0,0}\oplus\Lambda^{0,2})\otimes E,\qquad \det W^+=(K_J^{\mathrm{line}})^{-1}\otimes E^{\otimes2} \] になる。Chern類では \(c_1(\det W^+)=-K_X+2c_1(E)\) である。出力として、SW解が正則切断・因子・型分解された曲率条件として記述される、という対応を述べる。任意の \(\mathrm{Spin}^c\) 構造に正準構造の式をそのまま当てはめてはいけない。
39. 非零SW不変量を持つ基本類 \(K\) と、埋め込まれた連結曲面 \(\Sigma\) に対して、随伴不等式は \[ 2g(\Sigma)-2\ge \Sigma^2+|K\cdot\Sigma| \] という下界を与える。左辺は曲面の種数、右辺は自己交点と基本類とのペアリングである。例えばK3では基本類 \(K=0\) が非零で、\(\Sigma^2=2n\ge0\) なら \[ 2g(\Sigma)-2\ge2n \quad\Rightarrow\quad g(\Sigma)\ge n+1 \] となる。適用には、使う版に応じて \(b_2^+>1\)、\(g>0\)、非ねじれ性、自己交点条件などを確認する。
40. 最低限、三つの段階を説明する必要がある。第一に、大きな摂動を入れたSW方程式でスピノルと曲率の先験的評価を得る。この段階では、スピノルの一成分が大きく、もう一方が小さくなるという漸近を使う。第二に、スピノルの零点集合と曲率集中から、重複度を持つ擬正則曲線またはカレントを取り出す。単一の滑らかな曲線一本が常に出るわけではない。第三に、逆向きに擬正則曲線から近似SW解を作り、解析的な貼り合わせで真の解へ補正し、SW不変量とGromov不変量の対応を確立する。完全証明をしない場合でも、どこが引用定理でどこを本文で使うかを分ける。
追加確認問題の解答
41. 負定値なので \(b_2^+=0\)、単連結なので \(b_1=0\) である。\(SU(2)\) 束の低チャージ経路では \[ d=8c_2(E)[X]-3(1-b_1+b_2^+) \] を使う。\(c_2(E)[X]=1\) を代入すると \[ d=8-3(1-0+0)=5 \] である。この5次元性により、4次元のバブリング端 \(X\) と4次元の可約リンク \(\mathbb{CP}^2\) を同じコボルディズムの境界として比較できる。
42. 分裂 \(E\cong L\oplus L^{-1}\) では \[ c(E)=c(L)c(L^{-1})=(1+c_1(L))(1-c_1(L))=1-c_1(L)^2. \] 従って \(c_1(E)=0\)、\(c_2(E)=-c_1(L)^2\) である。\(c_2(E)[X]=1\) なので \[ \langle c_1(L)^2,[X]\rangle=-1. \] つまり可約解は交点格子の長さ \(-1\) のベクトルを作る。\(L\) と \(L^{-1}\) を入れ替えると符号が反転するため、数える対象は \(\{\pm c\}\) である。
43. 長さ \(-1\) の二つのベクトル \(c,d\) に対し、正定値形式 \(-Q\) のCauchy–Schwarzから \(|Q(c,d)|\le1\) である。等号なら \(c,d\) は実数倍で、整数格子内かつ長さ \(-1\) なので \(d=\pm c\) である。従って符号対として異なる長さ \(-1\) ベクトルは互いに直交する。階数 \(r\) の格子に少なくとも \(r\) 個の符号対があれば、ちょうど \(r\) 本の直交独立な長さ \(-1\) ベクトルを取れる。これらの張る部分格子の行列式は1であり、元の格子もユニモジュラーなので指数は1である。したがってそれらは整数基底で、交点行列は \(-I_r\) になる。
文献の読み分け
反自己双対方程式、モジュライ空間、Donaldson不変量の詳細は Donaldson と Kronheimer (1990年)、解析的基礎とコンパクト性は Freed と Uhlenbeck (1991年) を参照する。位相的分類の一次資料は Freedman (1982年)、対角化定理は Donaldson (1983年)、SW方程式導入は Witten (1994年)、シンプレクティック幾何への接続は Taubes (1996年) である。
厳密性の表示
- 深度A: 本文内で計算・証明を閉じた。
- 深度B: 核心を示し、解析の補題のみ付録または文献へ送った。
- 深度C: 主張、主要補題、難所、論理順序を示した。
- 深度D: 正確な入力・出力・用途を示して引用した。
深度Dは未証明という意味ではない。証明が本書の前提と規模を越えるため、どの結果をどの形で借りたかを追跡可能にしたという意味である。