Sunada 法――群作用が重複度をそろえる理由
群作用を有限集合で見る
群 \(G\) が集合 \(X\) に作用するとは、各 \(g\in G\) が点を置換し、積が置換の合成に対応することだ。点 \(x\) の軌道は \(\{gx:g\in G\}\)、固定する元の集合は安定化群 \(G_x\)。部分群 \(H\) の軌道ごとに点を同一視した集合が商 \(H\backslash X\) である。
最小例として \(G=S_3\) を \(X=\{1,2,3\}\) に置換で作用させ、\(H=\{e,(12)\}\) とする。\(H\)-軌道は \(\{1,2\}\) と \(\{3\}\) の二つなので、商 \(H\backslash X\) は二点集合である。\(X\) 上の関数 \((f_1,f_2,f_3)\) が \(H\)-不変である条件は \(f_1=f_2\) であり、これは商上の関数 \((a,b)\) を \((a,a,b)\) と持ち上げたものにちょうど一致する。「商上の関数=被覆上の不変関数」という後の対応は、この有限例の連続版である。
共役 \(aga^{-1}\) は、同じ対称操作を基準位置だけ変えて見たものと考えられる。二部分群 \(H_1,H_2\) が almost conjugate であるとは、任意の共役類 \(C\subset G\) について
\[ |C\cap H_1|=|C\cap H_2| \tag{11.1} \]
となること。共役な部分群なら商は明白に同じだが、almost conjugate で非共役なら、異なる商が同じスペクトルを持つ余地が生まれる。
三段階を区別する。\(H_2=gH_1g^{-1}\) なら二つの商はラベルを変えただけで、本質的に同じである。各共役類との交点数だけ等しく、実際には共役でない場合が Sunada の有用な状況である。位数が同じというだけでは足りず、ある共役類との交点数が違えば式 (11.3) の指標和が表現によって変わり得る。
BCDS propeller では \(G\cong PSL(3,2)\)(位数168)が Fano 平面の7点と7直線へ作用する。Fano 平面は各直線に3点、各点を3直線が通る最小の有限射影平面である。
点安定化群 \(H_p\) と直線安定化群 \(H_\ell\) はどちらも指数7、位数24である。共役類ごとの交点数は次のように一致する。
| 元の位数 | 共役類の大きさ | \(|C\cap H_p|\) | \(|C\cap H_\ell|\) |
|---|---|---|---|
| 1 | 1 | 1 | 1 |
| 2 | 21 | 9 | 9 |
| 3 | 56 | 8 | 8 |
| 4 | 42 | 6 | 6 |
| 7 | 24 | 0 | 0 |
| 7 | 24 | 0 | 0 |
交点数の列の和はともに24で、式 (11.1) を直接満たす。一方、内側からの共役は点安定化群を別の点安定化群へ送るので、直線安定化群へは送らない。点と直線を交換する双対性は外部自己同型であり、両者は almost conjugate だが共役ではない。
点と直線の incidence 行列が前章の \(T\) である。各直線上に3点あるので各行に3個、各点を3直線が通るので各列に3個の1がある。点置換と直線置換を intertwine する式は有限幾何の双対性を具体化する。
表現論の言葉では、7点上の関数空間は自明表現を \(H_p\) から \(G\) へ誘導した置換表現 \(\operatorname{Ind}_{H_p}^G\mathbf1\)、7直線側は \(\operatorname{Ind}_{H_\ell}^G\mathbf1\) である。incidence 行列 \(T\) はこの二表現の間の具体的 intertwiner である。前章の一個の行列計算は、誘導表現が同型になる現象を座標で書いたものに当たる。
平均射影
固有値 \(\lambda\) の固有空間 \(E_\lambda\) に \(G\) が表現 \(\rho\) として作用するとする。部分群 \(H\) に対し
\[ P_H=\frac1{|H|}\sum_{h\in H}\rho(h) \tag{11.2} \]
と置く。左から \(\rho(k)\), \(k\in H\) を掛けても和の順番が変わるだけなので \(P_Hv\) は \(H\)-不変。逆に \(v\) が不変なら \(P_Hv=v\)。さらに二回平均しても同じなので \(P_H^2=P_H\)。したがって像は \(E_\lambda^H\) で、射影の固有値は0か1。よって
\[ \dim E_\lambda^H=\operatorname{rank}P_H=\operatorname{tr}P_H =\frac1{|H|}\sum_{h\in H}\chi_\lambda(h). \tag{11.3} \]
指標 \(\chi(g)=\operatorname{tr}\rho(g)\) は共役類上一定である。実際
\[ \rho(aga^{-1})=\rho(a)\rho(g)\rho(a)^{-1} \]
で、相似行列の trace は等しい。式 (11.1) は各共役類から和に入る個数を一致させるため、式 (11.3) は \(H_1,H_2\) で等しい。
定理の仮定
\(M\) をコンパクト Riemann 多様体、有限群 \(G\) が等長に作用するとする。almost conjugate な部分群 \(H_1,H_2\) が自由に作用するなら、滑らかな商 \(H_1\backslash M,H_2\backslash M\) は関数上の Laplace–Beltrami 作用素について等スペクトルである。境界がある場合は作用が境界を保つ等の条件を置き、Dirichlet または Neumann を固定する。自由性を外すと商は一般に orbifold となり、別版の定理として扱う。
商上の固有関数は被覆 \(M\) 上の \(H_i\)-不変固有関数に対応するので、その重複度は式 (11.3) で一致する (Sunada 1985年)。GWW の平面領域構成は orbifold と反射を用いる拡張であり、この滑らかな閉多様体版を無条件に一行適用するものではない (Gordon ほか 1992年)。
| 具体的 transplantation | Sunada の抽象化 |
|---|---|
| 7個の関数片 | 剰余類上の置換表現 |
| 接着置換 \(P_s,Q_s\) | 群作用 |
| 行列 \(T\) の intertwining | 同型な誘導表現 |
| \(T\) の可逆性 | 全表現で不変部分空間次元が一致 |
- 上の \(S_3\) の例で平均射影 \(P_H(f_1,f_2,f_3)\) を具体的に求めよ。
- \(|H_1|=|H_2|\) だけでは almost conjugate と言えない理由を説明せよ。
- \(P_Hf=\frac12(f+(12)f)=((f_1+f_2)/2,(f_1+f_2)/2,f_3)\)。像は \(f_1=f_2\) の部分空間である。
- 位数の一致は全共役類との交点数の総和しか合わせない。式 (11.3) では指標が共役類ごとに異なり得るため、各交点数の一致が必要である。