解析的基礎

古典微分だけでは足りない

多角形の角や一般の初期データでは、解が境界まで二回連続微分可能とは限らない。しかしエネルギー \(\int|\nabla u|^2\) は有限であり得る。そこで関数と一階弱微分が \(L^2\) に属する空間

\[ H^1(\Omega)=\{u\in L^2(\Omega):\partial_ju\in L^2(\Omega)\} \]

を使う。弱微分は、滑らかな試験関数 \(\varphi\) に対し

\[ \int u\,\partial_j\varphi=-\int (\partial_ju)\varphi \]

を満たす関数として定義する。点ごとの微分より広いが、部分積分を保つ。

例として \(u(x)=|x|\) は \(x=0\) で古典微分できないが、弱微分は \(-1\)(\(x<0\))と \(+1\)(\(x>0\))を取る符号関数であり \(L^2(-1,1)\) に属する。したがって \(|x|\in H^1(-1,1)\)。一方、段差関数の分布微分は Dirac delta で \(L^2\) 関数ではないため \(H^1\) には属さない。弱微分は「どんな不連続も許す」概念ではない。

ノルムは

\[ \|u\|_{H^1}^2=\|u\|_{L^2}^2+\|\nabla u\|_{L^2}^2 \]

で、振幅と変化のエネルギーを同時に測る。

Lipschitz 領域の \(H^1\) 関数には境界 trace が定義できる。\(H_0^1(\Omega)\) は trace が0の関数、同値に内部の滑らかなコンパクト台関数の \(H^1\) 閉包である。

trace は単なる点値代入ではない。\(L^2\) 関数は零測度集合上の値を変えても同じ元なので、境界での点値を直接持たない。\(H^1\) の内部正則性を使って、滑らかな近似列の境界値の極限として定義する。

弱固有値問題

\(-\Delta u=\lambda u\) に \(v\in H_0^1\) を掛けて部分積分すると

\[ \int_\Omega\nabla u\cdot\nabla v =\lambda\int_\Omega uv. \tag{A.1} \]

式 (A.1) を全ての \(v\) について満たす \(u\ne0\) を弱固有関数とする。二階微分を直接要求せず、滑らかな設定では楕円正則性から後で古典解へ戻れる。

自己共役性とコンパクト性

エネルギー形式 \(a(u,v)=\int\nabla u\cdot\nabla v\) は対称かつ非負であり、非負自己共役な Dirichlet ラプラシアン \(P=-\Delta_D\) を定める。自己共役性は実対称行列に対応し、固有値が実数で異なる固有空間が直交することを保証する。

有界 Lipschitz 領域では Rellich–Kondrachov 定理により

\[ H_0^1(\Omega)\hookrightarrow L^2(\Omega) \]

がコンパクトである。エネルギーと大きさを一様に抑えた列は、細かく振動し続けられず \(L^2\) 収束部分列を持つ。この性質から \((P+I)^{-1}\) がコンパクトになる。

非有界領域では平行移動した同じ山型関数 \(u_n(x)=u(x-n)\) を考えると、\(H^1\) ノルムは一定でも互いに離れ続け、\(L^2\) 収束部分列を持たない。有界領域という仮定がコンパクト性に必要な理由である。

コンパクト自己共役作用素のスペクトル定理を逆作用素へ適用すると、\(P\) の固有値は有限重複度で離散的に並び無限大へ発散し、固有関数は \(L^2\) の完全正規直交系をなす。本文のモード展開・熱核展開はこの完全性に依存する。

もう一段書くと、コンパクトな \((P+I)^{-1}\) の非零固有値 \(\mu_k\) は0へしか集積できない。対応する \(P\) の固有値は \(\lambda_k=\mu_k^{-1}-1\) なので \(+\infty\) へ発散する。これが「コンパクト逆作用素から離散固有値列」が出る論理である。

Neumann では形式領域が \(H^1(\Omega)\) になり、定数関数が核を作る。連結領域なら零固有値の重複度は1、非連結なら連結成分数に等しい。

min–max 原理

\[ \lambda_k=\min_{\dim V=k}\max_{0\ne u\in V}R[u] \]

は第一固有値の最小化を \(k\) 次元部分空間へ拡張した式で、領域比較と有限要素近似の基礎になる (Evans 2010年; Chavel 1984年)。

参考文献

Chavel, Isaac. 1984年. Eigenvalues in Riemannian Geometry. Academic Press.
Evans, Lawrence C. 2010年. Partial Differential Equations. 2番目 版. American Mathematical Society.