第12章 悪い商、Morita同値、葉層:点集合を越えて軌道を記録する

Core — 商空間が軌道の情報を失う問題から出発し、交叉積、groupoid \(C^*\)-環、強Morita同値、葉層の非可換空間へ進む。

12.1 商集合を作るだけでは何が失われるか

空間 \(X\) に群 \(G\) が作用するとき、同じ軌道上の点を同一視して

\[ X/G=\{Gx:x\in X\} \]

を作れる。作用が自由かつproperであれば、\(X/G\) はしばしば良い位相空間になり、主束

\[ G\longrightarrow X\longrightarrow X/G \]

として元の作用をかなり復元できる。

しかし一般には、商集合と商位相だけでは次の情報が消える。

  • ある点を固定する stabilizer group。
  • 異なる軌道が互いにどう近づくか。
  • 軌道に沿う並進とholonomy。
  • 一つの軌道から別の軌道へ移る「矢」の合成。
  • 作用を使って作られる表現や指数。

非可換幾何で交叉積やgroupoidを使う第一の理由は、存在しない「良い商空間」を無理に点集合として作ることではない。点だけでなく、点を同一視する過程そのものを保存するためである。

12.2 最初の病理:irrational rotation の軌道空間

\(\theta\notin\mathbb Q\) とし、\(\mathbb Z\) が円周 \(\mathbb T\) に

\[ n\cdot z=e^{2\pi in\theta}z \]

で作用するとする。各軌道は可算集合だが、\(\mathbb T\) に稠密である。

商写像 \(q:\mathbb T\to\mathbb T/\mathbb Z\) を考える。商空間の開集合 \(W\) の逆像 \(q^{-1}(W)\) は、\(\mathbb Z\)-不変な円周の開集合でなければならない。作用がminimal、すなわち全軌道が稠密なので、非空の不変開集合は円周全体しかない。したがって商位相は

\[ \{\varnothing,\mathbb T/\mathbb Z\} \]

というindiscrete topologyになる。

軌道は無数にあるのに、連続関数はそれらを分離できない。実際、

\[ C(\mathbb T/\mathbb Z)\cong\mathbb C. \]

商空間の関数環へ移ると、回転角 \(\theta\)、軌道の向き、反復回数はすべて消える。

一方、作用を交叉積へ入れると

\[ C(\mathbb T)\rtimes_\alpha\mathbb Z\cong A_\theta \]

を得る。前章で見たように、これは二つのK理論生成元、標準trace、二つの導分を持つ。商位相がほぼ何も見ないのに、交叉積は豊かな構造を保つ。

この対比が

\[ \text{病的な軌道空間} \quad\rightsquigarrow\quad \text{非可換な商の代数} \]

という考えの最小模型である。

12.3 交叉積は何を保持したのか

作用 \(\alpha:G\curvearrowright A\) の交叉積は、\(A\) と群の実装元 \(u_g\) を

\[ u_gau_g^*=\alpha_g(a) \]

で結ぶ。\(A=C_0(X)\) なら、\(a\) は位置を測り、\(u_g\) は点を軌道に沿って動かす。

通常の商 \(X/G\) は「どの点が同じ軌道にあるか」だけを残す。交叉積はさらに「どの \(g\) が移したか」と「移動をどう合成するか」を残す。stabilizerも消えない。極端な例として一つの点 \(\{\ast\}\) に群 \(G\) が自明に作用すると、

\[ \{\ast\}/G=\{\ast\} \]

は群によらないが、

\[ C(\{\ast\})\rtimes G\cong C^*(G) \]

は群のunitary representationを記録する。

したがって交叉積を単純に \(C_0(X/G)\) の代用品と呼ぶだけでは不十分である。交叉積が表すのは、商集合よりも作用groupoid \(G\ltimes X\) である。

ただし、この「残す」は、交叉積を抽象的な \(C^*\)-環として一個与えれば元の作用が常に一意に復元できる、という意味ではない。係数代数 \(C_0(X)\) の埋め込み、標準的な実装元、離散可換群ならdual actionやcoactionといった追加データを含めて作用を読む。stabilizerも、抽象環の中に名前付きの部分群として残るのではなく、groupoidのisotropyとそれに由来する表現論として反映される。[Williams Crossed]

12.4 groupoid:対象だけでなく矢を残す

groupoid \(\mathcal G\) は、すべての矢が逆を持つ圏である。単位の集合を \(\mathcal G^{(0)}\)、矢の集合を \(\mathcal G\) と書き、

\[ s,r:\mathcal G\to\mathcal G^{(0)} \]

をsourceとrangeとする。\(s(\gamma)=r(\eta)\) のとき積 \(\gamma\eta\) が定義される。

主要な例

  1. 群: 単位が一つだけのgroupoid。
  2. pair groupoid \(X\times X\): \((x,y)\) を \(y\) から \(x\) への矢とし、\((x,y)(y,z)=(x,z)\)。
  3. 作用groupoid \(G\ltimes X\): 矢 \((g,x)\) は \(x\) から \(gx\) へ向かう。
  4. 同値関係groupoid: \(x\sim y\) となる対 \((x,y)\) を矢とする。
  5. holonomy groupoid: 葉層の同じ葉に沿う道をholonomyで同一視した矢からなる。

groupoidではorbit spaceだけでなく、各点のisotropy

\[ \mathcal G_x^x=\{\gamma:s(\gamma)=r(\gamma)=x\} \]

も残る。orbifoldの局所対称性や葉層のholonomyを記述できるのはこのためである。

12.5 groupoidのconvolution algebra

\(\mathcal G\) が離散的またはétaleである場合、compact supportを持つ関数 \(f,g\) に

\[ (f*g)(\gamma) =\sum_{\gamma_1\gamma_2=\gamma} f(\gamma_1)g(\gamma_2), \qquad f^*(\gamma)=\overline{f(\gamma^{-1})} \]

を入れる。この積は、一つの矢を二本の矢へ分解する全方法を足し合わせる。

一般のlocally compact groupoidでは和の代わりにHaar systemに関する積分を使う。Lie groupoidやfoliation groupoidでは、座標に依存しない定式化のためhalf-densityを用いることも多い。したがって任意の位相groupoidから無条件に上の和で \(C^*\)-環が作れるわけではない。

この *-代数を最大normでcompletionしてfull groupoid \(C^*\)-algebra \(C^*(\mathcal G)\)、正則表現から得るnormでcompletionしてreduced algebra \(C_r^*(\mathcal G)\) を作る。群の場合と同じく標準的な全射

\[ C^*(\mathcal G)\twoheadrightarrow C_r^*(\mathcal G) \]

がある。両者が一致するにはgroupoid amenabilityなどの条件が必要である。

作用groupoidでは、適切な規約の下で

\[ C^*(G\ltimes X)\cong C_0(X)\rtimes_{\max}G, \qquad C_r^*(G\ltimes X)\cong C_0(X)\rtimes_rG. \]

これにより交叉積はgroupoid代数の特別な場合になる。[Renault; Williams Crossed]

12.6 良い商では何が起きるか

交叉積は病的な場合だけの道具ではない。良い商の場合に通常の商空間へ戻れることが重要である。

定理(Green imprimitivityの自由proper作用の場合). locally compact group \(G\) がlocally compact Hausdorff空間 \(X\) に自由かつproperに作用するとき、

\[ C_0(X)\rtimes_rG \]

は

\[ C_0(X/G) \]

と強Morita同値である。標準的な仮定の下ではfull版についても対応する主張が成り立つ。

ここで結論は一般に *-同型ではなく強Morita同値である。非可換な商代数は、良い商が存在するときにはその商の関数環と「同じ表現論」を持つ。この復元性が、交叉積を商の適切な一般化とみなす根拠になる。

[証明レベル] 完全証明はHilbert \(C^*\)-module上のimprimitivity bimoduleを構成するGreen imprimitivity theoremに依存するため、本章では行わない。有限群の自由作用やcovering spaceでは、\(C_c(X)\) を両側加群として内積を軌道上で足し合わせる模型が見える。[Williams Crossed; Raeburn–Williams]

自由でない作用では、\(X/G\) がHausdorffでも stabilizer の表現論が商空間から消える。したがって「properなら交叉積は常に \(C_0(X/G)\) とMorita同値」と自由性を落として述べてはいけない。

12.7 強Morita同値の定義

環論でMorita同値な二つの環はmodule圏が同値である。\(C^*\)-環ではnorm、adjoint、positivityも保つため、Hilbert \(C^*\)-moduleを使う。

\(A\)-\(B\) imprimitivity bimodule \(E\) とは、概略、次を満たす両側加群である。

  • \(E\) はfullな右Hilbert \(B\)-module。
  • 左 \(A\)-値内積と右 \(B\)-値内積の値の線形包が、それぞれ \(A\) と \(B\) に稠密である。
  • \(A\) は \(E\) 上にadjointable operatorとして作用する。
  • 左 \(A\)-値内積と右 \(B\)-値内積が

\[ {}_A\langle \xi,\eta\rangle\zeta =\xi\langle\eta,\zeta\rangle_B \]

で両立する。 - 左作用が

\[ A\cong K_B(E) \]

を与える。ここで \(K_B(E)\) はrank-one operator

\[ \Theta_{\xi,\eta}(\zeta)=\xi\langle\eta,\zeta\rangle_B \]

の閉線形包である。

このような \(E\) が存在するとき \(A\) と \(B\) はstrongly Morita equivalentといい、

\[ A\sim_M B \]

と書く。

imprimitivity bimodule \(E\) は、\(B\) の非退化表現を \(A\) の表現へ送るRieffel inductionを与える。したがって強Morita同値は「元が同じ」という関係ではなく、「表現とmoduleの理論が同じ」という関係である。[Rieffel 1974]

12.8 最小の例:\(\mathbb C\) と行列環

\(E=\mathbb C^n\) を右 \(\mathbb C\)-Hilbert moduleとみなすと

\[ K_{\mathbb C}(E)\cong M_n(\mathbb C). \]

したがって

\[ M_n(\mathbb C)\sim_M\mathbb C. \]

両者は \(n>1\) なら *-同型ではない。次元も元の個数も違う。それでも非退化表現の圏は対応し、K理論も

\[ K_0(M_n(\mathbb C))\cong K_0(\mathbb C)\cong\mathbb Z, \qquad K_1(M_n(\mathbb C))\cong0 \]

となる。

同様に無限次元可分Hilbert空間 \(H\) について

\[ K(H)\sim_M\mathbb C. \]

これは安定化 \(A\mapsto A\otimes K(H)\) がMorita理論で自然に現れる理由である。

一般の \(C^*\)-環 \(A\) については、標準右Hilbert \(A\)-module

\[ H_A=\ell^2(\mathbb N)\otimes A \]

を使う。その「compact」adjointable operatorの環は

\[ K_A(H_A)\cong K\otimes A \]

である。したがって \(H_A\) 自身が \((A\otimes K)\)-\(A\) imprimitivity bimoduleとなり、

\[ A\otimes K\sim_M A \]

を得る。この向きは任意の \(A\) に成り立ち、次節のBrown–Green–Rieffel定理の「Morita同値なら安定同型」という逆向きにのみ \(\sigma\)-unital性が必要である。[Brown–Green–Rieffel]

12.9 何が保存され、何が保存されないか

強Morita同値で保存される代表的なものは次である。

  • 非退化 *-表現の圏。
  • 閉両側idealの束。
  • primitive ideal spaceのhomeomorphism。
  • \(K_0,K_1\)。
  • nuclearity、exactnessなど多くの \(C^*\)-的性質。

\(\sigma\)-unital \(C^*\)-環では Brown–Green–Rieffel theorem により

\[ A\sim_M B \quad\Longleftrightarrow\quad A\otimes K\cong B\otimes K \]

が成り立つ。仮定を落として任意の \(C^*\)-環に無条件で適用してはいけない。[Brown–Green–Rieffel]

一方、強Morita同値が自動的に保存しないものもある。

  • *-同型としての元や積の具体式。
  • unitの存在と指定されたunit class。たとえば \(K(H)\sim_M\mathbb C\) だが、前者は無限次元なら非単位的である。
  • 個々の元のspectrumやnorm。
  • traceの正規化。trace coneには対応があるが、\(\tau(1)=1\) という正規化はunitを含む追加情報に依存する。
  • 指定されたsmooth subalgebra、微分計算、力学系。
  • spectral tripleとConnes距離。

したがって「Morita同値なら同じ非可換空間」という表現は、どの幾何構造まで同一視するかを省略した標語である。位相的K理論や表現論には適切でも、距離・計量・微分構造まで自動的に同じとは言えない。

距離が自動的に保存されないことは、最小例 \(M_n(\mathbb C)\sim_M\mathbb C\) でも見える。\(\mathbb C\) のstateは一つだが、\(M_n(\mathbb C)\) には密度行列で表される多数のstateがある。したがって、state spaceの二点間距離をそのまま対応させることさえできない。spectral tripleやLipschitz半ノルムも別途移送する構成が必要である。

逆に、K群が同型だからMorita同値とも限らない。K理論はMorita不変量だが完全不変量ではない。

12.10 可換環ではMorita同値はどこまで弱いか

可換 \(C^*\)-環 \(C_0(X)\) と \(C_0(Y)\) が強Morita同値なら、primitive ideal spaceの対応から

\[ X\cong Y \]

が従う。さらに可換 \(C^*\)-環同士の強Morita同値は *-同型を導く。

つまり可換世界ではMorita同値は空間のhomeomorphismより本質的に弱い同値関係ではない。非可換世界へ移ると \(M_n(A)\)、\(A\otimes K\)、異なる非可換トーラスなど、非同型だがMorita同値な代数が現れる。

この点は「通常のhomeomorphismの非可換版」という説明を慎重にする理由である。*-isomorphismがhomeomorphismの直接の反変対応であり、Morita同値はvector bundleや表現論を同じとみなす、より粗い幾何的同値である。

12.11 非可換トーラス間のMorita同値

irrational \(\theta\) に対して、整数行列

\[ g= \begin{pmatrix} a&b\\ c&d \end{pmatrix} \in GL(2,\mathbb Z) \]

が分母 \(c\theta+d\ne0\) を満たすとき、

\[ g\cdot\theta=\frac{a\theta+b}{c\theta+d} \]

という分数線形変換を考える。

定理(Rieffel). irrational \(\theta,\theta'\) に対し、\(A_\theta\) と \(A_{\theta'}\) が強Morita同値であることと、\(\theta'\) が \(\theta\) の \(GL(2,\mathbb Z)\)-orbitに属することは同値である。

文献によって \(SL(2,\mathbb Z)\)、符号反転、opposite algebraを分けて記述する。\(A_{\theta+1}\cong A_\theta\)、\(A_{-\theta}\) との同型をどう組み込むかで表示が変わるため、使用する定理の規約を確認する。

典型的な変換

\[ \theta\longmapsto-\frac1\theta \]

に対応するimprimitivity moduleは、Schwartz空間上の平行移動と位相乗算から作られる Heisenberg module である。これは非可換トーラス上のvector bundleの役割を果たす。

Morita同値な \(A_\theta,A_{\theta'}\) は同じK群を持つ。しかしK群はそもそも全 \(\theta\) で \(\mathbb Z^2\) なので、K群の一致だけでは上の \(GL(2,\mathbb Z)\)-条件を導けない。ordered \(K_0\)、trace pairing、module構造が必要である。[Rieffel 1981; Rieffel 1974]

この定理はまず \(C^*\)-環としての強Morita同値を述べる。標準の滑らかな部分代数、導分、flat Dirac作用素まで保つと言うには、Heisenberg module上の接続を用いた追加の互換性を示す必要がある。したがって「Morita同値な非可換トーラスは同じflat metricを持つ」とは、この定理だけからは結論できない。[Connes NCG]

12.12 葉層とは何か

滑らかな多様体 \(M\) 上の \(p\) 次元葉層 \(\mathcal F\) は、各点の近くで

\[ \mathbb R^p\times\mathbb R^q \]

の座標を取り、\(\mathbb R^p\times\{y\}\) が局所的な葉になる構造である。接分布 \(T\mathcal F\subset TM\) はLie bracketで閉じ、Frobenius theoremにより積分多様体である葉へ分解される。

葉を一点へ潰した集合

\[ M/\mathcal F \]

をleaf spaceと呼ぶ。葉が閉でなく稠密になる場合、leaf spaceはHausdorffですらない。そこで各葉を一点へ潰す代わりに、葉に沿う道を矢として残す。

12.13 holonomy groupoid

同じ葉の中を進むpiecewise smooth path \(\gamma:x\to y\) は、\(x\) の小さなtransversalから \(y\) のtransversalへの局所微分同相を誘導する。このgermをholonomyという。

二本のleafwise pathが同じ端点を持ち、同じholonomy germを誘導するとき同値とする。その同値類を矢とするgroupoidがholonomy groupoid

\[ \operatorname{Hol}(M,\mathcal F) \]

である。

  • 単位は \(M\) の点。
  • sourceとrangeはpathの始点と終点。
  • 積はpathの連結。
  • 逆はpathの向きの反転。

holonomyは、葉を一周してtransversalへ戻ったとき近傍がどうずれるかを測る。leaf spaceだけではこのずれは消えるが、holonomy groupoidにはisotropyとして残る。

一般のholonomy groupoidは非Hausdorffになり得る。groupoid \(C^*\)-環を構成するときは、局所コンパクト性、Haar system、非Hausdorffの場合のcompact supportの扱いを確認しなければならない。概念図だけから常に通常の \(C_c(\mathcal G)\) を使えると仮定しない。[Connes 1982; Moerdijk–Mrčun]

12.14 Kronecker葉層から非可換トーラスへ

\(\mathbb T^2=\mathbb R^2/\mathbb Z^2\) 上で、一定ベクトル場

\[ X=\frac{\partial}{\partial x} +\theta\frac{\partial}{\partial y} \]

の積分曲線が作る1次元葉層を考える。これをKronecker foliationと呼ぶ。

\(\theta\notin\mathbb Q\) なら各葉はトーラス内で稠密である。したがってleaf space \(\mathbb T^2/\mathcal F_\theta\) の商位相は、irrational rotationの軌道空間と同様に点を分離できない。

横断面

\[ T=\{x=0\}\cong\mathbb T \]

を選ぶ。一つの葉に沿って \(x\)-方向に一周して \(T\) へ戻ると、\(y\) 座標は \(\theta\) だけ回転する。したがってreturn mapは

\[ y\longmapsto y+\theta\pmod1 \]

である。transversal上へ制限したholonomy groupoidは、irrational rotationの作用groupoid

\[ \mathbb Z\ltimes_\theta\mathbb T \]

になる。

full holonomy groupoidとこのtransversal groupoidはgroupoidの意味でMorita equivalentであり、その \(C^*\)-環は強Morita同値になる。後者の \(C^*\)-環は

\[ C(\mathbb T)\rtimes_\theta\mathbb Z\cong A_\theta \]

である。傾き、transversal、作用を関数側へ移す規約により \(\theta\)、\(-\theta\)、\(1/\theta\) が現れることがあるため、具体式では規約を固定する。

これにより \(A_\theta\) は単なる二つの非可換座標の代数ではなく、Kronecker foliationの病的なleaf spaceを表す非可換代数として現れる。

12.15 groupoid Morita同値と \(C^*\)-Morita同値

二つのgroupoidがequivalentであるとは、概略、一方から他方へのprincipal bibundleがあり、軌道とisotropyを整合的に移すことをいう。同じorbifoldや同じ葉層を異なるatlas・transversalで表示すると、groupoid自体は同型でなくてもequivalentになる。

適切なlocally compact groupoidとHaar systemの仮定の下で、

\[ \mathcal G\simeq\mathcal H \quad\Longrightarrow\quad C^*(\mathcal G)\sim_M C^*(\mathcal H) \]

が成り立つ。ここの \(C^*\) はfull completionを表す。さらに、同じgroupoid equivalenceから

\[ C_r^*(\mathcal G)\sim_M C_r^*(\mathcal H) \]

も従う。このreduced版の帰結自体にamenabilityを追加仮定する必要はない。amenabilityが関与するのは、主に各groupoidでfullとreducedを同一視する場面である。[Muhly–Renault–Williams; Sims–Williams]

逆向きは一般に成り立たない。二つのgroupoid \(C^*\)-環が強Morita同値だからといって、元のgroupoidが幾何的にequivalentとは限らない。\(C^*\)-completionはgroupoidのsmooth構造や一部の動力学情報を忘れ得る。

したがって次の三段階を区別する。

\[ \text{groupoid equivalence} \Longrightarrow \text{C}^*\text{-algebraic Morita equivalence} \Longrightarrow \text{K群の同型}. \]

一般に逆向きの含意はない。

12.16 葉層の「幾何」はどこに入るか

holonomy groupoid \(C^*\)-環だけでも、表現、K理論、ideal構造は得られる。しかし葉に沿う微分幾何を行うには追加構造が必要である。

  • groupoidのsmooth convolution algebra。
  • 葉方向の微分作用素。
  • 横断不変測度またはweight。
  • longitudinal elliptic operatorのsymbol class。
  • cyclic cocycleで表す横断基本類。

葉方向の楕円作用素 \(D_\mathcal F\) は解析的index

\[ \operatorname{Ind}(D_\mathcal F)\in K_*\bigl(C^*(\operatorname{Hol}(M,\mathcal F))\bigr) \]

を持つ。通常の多様体の楕円作用素のindexが整数であるのに対し、葉層ではindexがgroupoid \(C^*\)-環のK類になる。このK類をtraceやcyclic cocycleとpairingすると数値的不変量を得る。

この構図が

\[ \text{葉層} \longrightarrow \text{groupoid algebra} \longrightarrow \text{K理論} \longrightarrow \text{cyclic cohomologyとのpairing} \]

という非可換index theoremへの道である。[Connes 1982; Connes NCG]

本章ではindex theorem自体は証明しない。holonomy groupoidの解析的詳細、longitudinal pseudodifferential calculus、Chern characterが必要だからである。

12.17 「悪い商を直す」という標語の限界

非可換代数を使っても、病理が消えて通常の点集合が戻るわけではない。変わるのは問いである。

  • 「商の点は何か」から「作用groupoidの表現は何か」へ。
  • 「連続関数は点を分離するか」から「交叉積の状態・ideal・K類は何を検出するか」へ。
  • 「leaf spaceはHausdorffか」から「holonomy algebraのindex pairingは何か」へ。

したがって非可換幾何は、悪い商を良いHausdorff空間へ修理する一般手続きではない。点集合では失われる情報を、代数・加群・表現・K理論へ移して扱えるようにする枠組みである。

また同じ病的商にも複数の代数モデルがあり得る。fullかreducedか、どのgroupoid presentationを使うか、smooth algebraをどう選ぶかで得られる構造は変わる。目的に応じた選択と、選択間のMorita同値・KK同値を確認する必要がある。

12.18 本章の論理をまとめる

flowchart TD
  A[群作用・葉層] --> B[軌道・葉の同値関係]
  B --> C[商位相が情報を失う]
  A --> D[作用groupoid・holonomy groupoid]
  D --> E[convolution algebra]
  E --> F[full / reduced C*-completion]
  F --> G[表現・ideal・K理論]
  D --> H[groupoid equivalence]
  H --> I[C*-強Morita同値]
  I --> J[K群の同型]

重要なのは下向きの含意を逆に読まないことである。K群の一致はMorita同値を意味せず、\(C^*\)-Morita同値はgroupoid equivalenceを意味せず、groupoid algebraは選択なしに距離や滑らかさを決めない。

12.19 章末の確認

  1. irrational rotation の軌道空間がindiscreteになることを、不変開集合を使って示せ。
  2. 一点への自明な群作用を使い、商空間がstabilizerを失うことを説明せよ。
  3. 作用groupoid \(G\ltimes X\) のsource、range、積、逆元を書け。
  4. étale groupoidのconvolution積が矢の合成をどう記録するか説明せよ。
  5. full/reduced groupoid \(C^*\)-環を区別する必要があるのはなぜか。
  6. 自由proper作用で \(C_0(X)\rtimes G\) と \(C_0(X/G)\) の関係が *-同型ではなくMorita同値として現れる理由を述べよ。
  7. \(M_n(\mathbb C)\sim_M\mathbb C\) をimprimitivity module \(\mathbb C^n\) から説明せよ。
  8. 強Morita同値が保存する構造を三つ、保存しない構造を三つ挙げよ。
  9. 同型なK群だけからMorita同値を結論できない理由を、非可換トーラスを例に説明せよ。
  10. Kronecker foliationのtransversal return mapから \(A_\theta\) が現れる手順を説明せよ。
  11. holonomy groupoidがleaf spaceより多く保持する情報は何か。
  12. groupoid equivalence、\(C^*\)-Morita同値、K群同型の含意の向きを書け。
  13. 標準Hilbert module \(H_A\) を用い、\(A\otimes K\sim_M A\) を説明せよ。
  14. 強Morita同値がなぜConnes距離を自動的に保存しないか、\(M_n(\mathbb C)\sim_M\mathbb C\) のstate spaceを使って説明せよ。

12.20 参考文献

  • Marc A. Rieffel, “Morita equivalence for C-algebras and W-algebras,” Journal of Pure and Applied Algebra 5 (1974), 51–96. DOI: 10.1016/0022-4049(74)90003-6
  • Iain Raeburn and Dana P. Williams, Morita Equivalence and Continuous-Trace C-Algebras*, AMS, 1998. DOI: 10.1090/surv/060
  • Jean Renault, A Groupoid Approach to C-Algebras*, Springer Lecture Notes in Mathematics 793, 1980. DOI: 10.1007/BFb0091072
  • Paul S. Muhly, Jean N. Renault and Dana P. Williams, “Equivalence and isomorphism for groupoid C-algebras,” Journal of Operator Theory* 17 (1987), 3–22. JSTOR
  • Aidan Sims and Dana P. Williams, “Renault’s equivalence theorem for reduced groupoid C-algebras,” Journal of Operator Theory* 68 (2012), 223–239. Journal PDF
  • Lawrence G. Brown, Philip Green and Marc A. Rieffel, “Stable isomorphism and strong Morita equivalence of C-algebras,” Pacific Journal of Mathematics* 71 (1977), 349–363. DOI: 10.2140/pjm.1977.71.349
  • Ieke Moerdijk and Janez Mrčun, Introduction to Foliations and Lie Groupoids, Cambridge University Press, 2003. DOI: 10.1017/CBO9780511615450
  • Alain Connes, “A survey of foliations and operator algebras,” in Operator Algebras and Applications, Part I, Proceedings of Symposia in Pure Mathematics 38, AMS, 1982, 521–628. 著者公開PDF
  • Alain Connes, Noncommutative Geometry, Academic Press, 1994. 著者公開PDF
  • Dana P. Williams, Crossed Products of C-Algebras*, AMS, 2007. DOI: 10.1090/surv/134