付録A 必要な関数解析
この付録は独立した関数解析教科書ではない。本文で使う道具が、どの問題を解決するかを確認する。
A.1 完備性
ノルム空間 \(X\) がBanach空間であるとは、すべてのCauchy列が \(X\) 内で収束することをいう。完備性は、近似列で作った解や級数の和を同じ空間に留める。
- Neumann級数はBanach環の逆元を作る。
- Cauchy列として得た切断・作用素・関数を極限へ送る。
- 閉グラフ定理、一様有界性原理、開写像定理の仮定になる。
A.2 Hahn–Banach定理
複素ノルム空間 \(X\) の部分空間 \(Y\) 上の有界線形汎関数は、ノルムを増やさず \(X\) 全体へ延長できる。帰結として、\(x\neq0\) ならある \(f\in X^*\) が \(f(x)\neq0\) を満たす。本文では、すべての線形汎関数がある元を0へ送るなら、その元が0であることを保証する。
\(C^*\)-環ではHahn–Banachと正値性の議論により、状態が自己共役元のノルムを検出する。
A.3 Hilbert空間のRiesz表現定理
Hilbert空間 \(H\) 上の連続線形汎関数 \(f\) は一意な \(\eta\in H\) により
$$ f()=,
$$
と書け、\(\|f\|=\|\eta\|\) である。これにより有界作用素 \(T\) の随伴 \(T^*\) を定義できる。GNS構成後に状態をベクトル内積として表すのも同じ構造である。
A.4 弱収束と弱-*収束
\(x_i\to x\) が弱収束するとは、すべての \(f\in X^*\) で \(f(x_i)\to f(x)\) となることをいう。\(X^*\) 上の弱-*収束は、すべての \(x\in X\) で \(f_i(x)\to f(x)\) となることをいう。
Banach–Alaoglu定理により、\(X^*\) の閉単位球は弱-コンパクトである。したがって \(C^*\)-環の状態空間は弱-コンパクト凸集合になり、Krein–Milman定理と合わせて純粋状態が重要になる。
列だけで閉包を捉えられない位相があるため、一般にはnetを使う。netは自然数でなく有向集合で添字付けた族であり、有限個の条件を同時に最終的に満たすという収束の本質を保つ。
A.5 閉作用素と非有界作用素
非有界作用素 \(D\) は通常、稠密部分空間 \(\operatorname{Dom}D\subset H\) 上で定義される。グラフ
$$ {(,D):D}HH
$$
が閉なら \(D\) は閉作用素である。自己共役性は \(D=D^*\) と定義域まで一致することを要求し、単なる対称性 \(\langle D\xi,\eta\rangle=\langle\xi,D\eta\rangle\) より強い。
自己共役 \(D\) では \((D-i)^{-1}\in B(H)\) が存在する。スペクトル三つ組のcompact resolvent条件は \((D-i)^{-1}\in K(H)\) と書ける。非有界な微分作用素を有界作用素環の方法へ接続する入口である。
A.6 一様有界性原理
Banach空間 \(X\) からノルム空間 \(Y\) への有界作用素族 \(\{T_i\}\) が各 \(x\in X\) について \(\sup_i\|T_ix\|<\infty\) を満たすなら、\(\sup_i\|T_i\|<\infty\) である。強収束する列は点ごとに有界なので一様有界になる。
netでは「収束するからnet全体が有界」とは限らない。収束が制御するのはあるtail以後だけで、tailの外に無限個の無界な項があり得る。正しくは、強収束netには一様有界なtailを選べる。または、net全体が各点で有界だと別途仮定すれば一様有界性原理を適用できる。作用素位相で積を扱うときは、このどちらを使っているかを明示する。