付録C Clifford代数・spinor・Dirac作用素

C.1 微分形式だけではなくClifford作用を使う理由

Riemann多様体 \((M,g)\) の余接ベクトル \(\alpha\) に対し、Clifford作用 \(c(\alpha)\) は

$$ c()c()+c()c()=-2g^{-1}(,)

$$

を満たす。特に

$$ c()*c()=||2

$$

となる符号規約を取れば、\(\|c(\alpha)\|=\|\alpha\|\) である。この等長性がConnes距離公式で \(\|[D,f]\|\) をLipschitz定数に変える。

C.2 spin構造の役割

向き付けられたRiemann多様体の正規直交frame bundleの構造群 \(SO(n)\) を二重被覆 \(\operatorname{Spin}(n)\to SO(n)\) へ持ち上げられるときspin構造を持つ。spin表現に付随するベクトル束 \(S\to M\) がspinor bundleである。

すべての多様体がspinとは限らない。向き付け可能性に加え、第2 Stiefel–Whitney類 \(w_2(M)\) の消滅が障害条件になる。したがって可換スペクトル三つ組の標準模型 \((C^\infty(M),L^2(M,S),D)\) では、コンパクトspin多様体などの仮定を明記する。

C.3 Dirac作用素

Levi–Civita接続からspin接続 \(\nabla^S\) を作り、局所正規直交frame \((e_j)\) に対し

$$ D=j c(ej)S{e_j}

$$

と定める。関数 \(f\) に対しLeibniz則を使うと

$$ D(f)-fD =_j c(e^j)e_j(f) =c(df).

$$

よって \([D,f]=c(df)\) である。接続の0階項は交換子で消え、主記号に含まれる計量が残る。

C.4 Lichnerowicz公式への入口

spin Dirac作用素には

$$ D2=*+

$$

というLichnerowicz公式がある。左辺のスペクトルが接続Laplacianとscalar curvatureを含むため、Dirac作用素が計量だけでなく曲率情報を持つことが分かる。証明にはClifford接続の曲率計算が必要なため、本書では外部定理として用いる。