付録A Brown 運動と連続なレヴィ過程

付録A Brown 運動と連続なレヴィ過程

STATUS: この節の主張は、定理・引用定理・発見法・予想を区別して読む。 STATUS: スケーリング極限や連続極限のうち本章で証明していない入力は、本文中で外部入力として扱う。

Brown 運動の最小限の性質

本教材で使う Brown 運動 \(B_t\) は、次の性質を持つ実数値確率過程である。

  1. \(B_0=0\)。
  2. \(B_t\) は連続な軌道を持つ。
  3. \(B_t-B_s\) は過去 \(\mathcal F_s\) と独立である。
  4. \(B_t-B_s\) の分布は時刻差 \(t-s\) だけで決まる。
  5. \(B_t-B_s\) は平均 0、分散 \(t-s\) の正規分布に従う。

SLE で本当に必要なのは、Brown 運動が「有名なランダム関数」だからではない。連続な定常独立増分過程を分類すると、drift 付き Brown 運動しか残らない、という構造である。

連続なレヴィ過程の分類をどう使うか

レヴィ過程(Lévy process)は定常独立増分を持つ過程であるが、一般にはジャンプを含むことがある。Poisson 過程がその典型である。SLE の駆動関数にジャンプがあると、先端像が実軸上で不連続に飛ぶ。格子界面の連続極限として扱う曲線とは合わない。

連続性を仮定すると、Lévy-Khinchine 表現のジャンプ測度は消える。残るのは drift と Gaussian 成分である。したがって \[ U_t=bt+\sigma B_t \] となる。さらに容量時間のスケーリング \[ (r^{-1}U_{r^2t})_{t\ge0}\stackrel{d}{=}(U_t)_{t\ge0} \] を課すと \(b=0\) でなければならない。ここで初めて \[ U_t=\sqrt{\kappa}B_t \] が出る。

なぜ正規分布が出るか

直感的には、定常独立増分は「小さな時間区間の独立な寄与を足す」構造である。連続性により、一つの小区間で大きなジャンプをすることはない。多数の小さな独立寄与の和の極限は中心極限定理により正規分布になる。この直観が、連続なレヴィ過程の Gaussian 成分に対応する。

この説明は完全証明ではないが、SLE の分類原理で Brown 運動が現れる理由を理解するには十分である。Brown 運動は選ばれたのではなく、仮定の組み合わせによって残された。