第13章 臨界パーコレーションと SLE6

第13章 臨界パーコレーションと SLE6

STATUS: この節の主張は、定理・引用定理・発見法・予想を区別して読む。 STATUS: スケーリング極限や連続極限のうち本章で証明していない入力は、本文中で外部入力として扱う。

本章で扱う定理は、三角格子の臨界サイト・パーコレーション(critical site percolation)の探索経路が SLE\(_6\) へ収束する、という結果である。三角格子に限定するのは、Smirnov 観測量が離散正則性を持ち、Cardy 公式を証明できるためである (Smirnov 2001年)。一般格子の percolation 普遍性を同じ強さで主張してはいけない。

証明の構造は次である。

項目 内容
入力 三角格子 site percolation、\(p=1/2\)、Dobrushin 境界条件
出力 探索経路の SLE\(_6\) 収束
主要道具 Smirnov 観測量、Cardy 公式、RSW 型 crossing estimate、Loewner 同定
難所 離散正則性、境界収束、曲線 tightness
本教材で証明しない部分 Smirnov 定理の完全証明
下流での使い方 SLE\(_6\) の locality、percolation 臨界指数、普遍性の基準例

なぜ \(\kappa=6\) か。Cardy 公式から得られる横断確率は、SLE のマルチンゲール PDE の解と一致する。その PDE が左側通過確率や局所性と整合する値が \(\kappa=6\) である。ここでも、数値実験の曲線が似ているから \(\kappa=6\) なのではない。観測量が極限で満たす方程式が、SLE\(_6\) の方程式と一致するのである。

Smirnov 観測量は何をするか

三角格子 site percolation では、ある境界弧へ接続する確率を組み合わせた観測量が、離散的な意味で正則関数に近い振る舞いをする。格子幅を 0 へ送ると、この観測量は連続領域の正則または調和な関数へ収束し、その境界値問題の解が Cardy 公式を与える。

Cardy 公式は、四角形型領域で片側から反対側へ crossing が存在する確率を等角不変な量として与える。これは「等角不変性を仮定する」ものではなく、三角格子 percolation について等角不変な極限を証明する入力である。

探索経路との関係は次の通りである。探索経路がある点や境界弧をどちら側に残すかは、percolation の横断事象と結びつく。したがって横断確率の極限を知ると、探索経路の条件付き確率観測量の極限がわかる。その極限が SLE\(_6\) のマルチンゲールと一致することで、駆動過程の \(\kappa\) が 6 と同定される。

locality と \(\kappa=6\)

SLE\(_6\) には locality と呼ばれる性質がある。曲線がまだ触れていない遠くの障害物を領域から取り除いても、曲線がその障害物に到達するまでの法則は変わらない。percolation 探索経路にも、未探索領域の色の独立性から、同じ型の局所性がある。

この対応は \(\kappa=6\) の自然さを説明する。ただし locality だけを見て証明が終わるわけではない。実際の収束証明では、Cardy 公式、tightness、境界収束、観測量の極限、Loewner 同定を組み合わせる。locality は、SLE\(_6\) が percolation の性質と合うことを示す重要な特徴である。

一般格子への注意

正方格子や他の周期格子でも、物理的には同じ SLE\(_6\) 極限が期待される。しかし、本教材ではこれを定理として扱わない。三角格子では離散正則観測量が強く働くが、一般格子では同じ道具がそのまま使えるとは限らない。

したがって、percolation の章で証明済みとして扱うのは「三角格子 site percolation」の結果である。一般格子の普遍性は、第15章の予想・発展項目に置く。

Cardy 公式から駆動係数を読む

四角形領域の四つの境界弧を考え、左側の弧から右側の弧へ黒クラスターが横断する確率を \(P\) とする。Smirnov 観測量の極限は、領域を上半平面へ写したときの境界点の配置だけで \(P\) を決める。したがって、格子の細部は極限の境界値問題に吸収される。

探索経路を途中まで見た条件付き横断確率も、残り領域を標準化すれば同じ型の関数になる。この条件付き確率が離散マルチンゲールであることを使い、極限の Loewner 座標へ移す。すると、関数が生成作用素の核に入るための係数条件が現れ、その条件が \(\kappa=6\) を選ぶ。

ここで Cardy 公式は最終結論ではなく、観測量の極限を与える入力である。曲線収束には、境界の近似と tightness、駆動過程の同定、hull から trace への回復が別に必要である。Cardy 公式だけを引用して「探索経路が SLE\(_6\)」と書くのは証明の途中を飛ばしている。

本章の到達点

本章で解決した問いは、三角格子 site percolation で Smirnov 観測量と Cardy 公式がなぜ \(\kappa=6\) を同定するかである。残った問いは、別の模型では同じ入力がどのように置き換わるかである。次章では、LERW の Green 関数と UST との関係を見る。

参考文献

Smirnov, Stanislav. 2001年. 「Critical percolation in the plane: conformal invariance, Cardy’s formula, scaling limits」. Comptes Rendus de l’Académie des Sciences - Series I - Mathematics 333 (3): 239–44. https://doi.org/10.1016/S0764-4442(01)01991-7.