第16章 Gaussian Free Field は関数ではない

第16章 Gaussian Free Field は関数ではない

STATUS: この節の主張は、定理・引用定理・発見法・予想を区別して読む。 STATUS: スケーリング極限や連続極限のうち本章で証明していない入力は、本文中で外部入力として扱う。

この章の目的は、SLE\(_4\) をランダム場の等高線として見る入口を作ることである。percolation や LERW の収束証明を置き換える章ではない。

GFF はランダム場であり、点ごとの値を持つ通常の関数ではない。滑らかな test function \(\phi\) に対する平均 \((h,\phi)\) は定義できるが、\(h(z)\) は定義できない。円平均 \(h_\varepsilon(z)\) を取ると有限の量になるが、\(\varepsilon\downarrow0\) で分散が発散する。

図 1: GFF の円平均は半径を変えると揺らぎの大きさが変わる。

GFF を入れる理由は、SLE から話を広げるためではなく、一本の曲線からランダム場へ戻るためである。SLE\(_4\) は GFF の level line と結びつく。点ごとの level set がない場から、条件付き平均と境界値問題を通じて曲線を復元する、というのが核心である。

円平均で見る GFF

GFF は点ごとの値を持たないが、円周上の平均 \[ h_\epsilon(z) \] は意味を持つ。半径 \(\epsilon\) を小さくすると、平均はより局所的な情報を拾うが、分散は大きくなる。これは、GFF が通常の関数ではなく分布であることの現れである。

この性質は、SLE との結合で大きな意味を持つ。level line と言っても、通常の関数の等高線のように \(h(z)=c\) を点ごとに結ぶわけではない。境界条件、条件付き平均、local set という概念を使い、「曲線を見た後の場の条件付き法則」が再び GFF 型になることを利用して曲線を定義する。local set は「局所集合」と訳されることもあるが、本教材では GFF 文献での用語との対応を優先して local set と呼ぶ。

一本の曲線から場へ戻る

ここまでの本編は、二次元ランダム曲線を一次元 Brown 運動へ圧縮する話だった。GFF は逆向きの視点を与える。曲線は孤立した対象ではなく、背後にあるランダム場の境界線として現れることがある。

SLE\(_4\) はその最も基本的な例である。percolation の SLE\(_6\) や LERW の SLE\(_2\) は、離散界面の極限として導入した。SLE\(_4\) は、GFF という連続ランダム場の等高線として導入できる。これにより、SLE は「格子模型の境界」だけでなく、「ランダム場の幾何」ともつながる。

GFF の共分散と局所性

平面 GFF の共分散は、形式的には Laplace 作用素の Green 関数である。二点が近いほど対数的に強く相関し、点ごとの分散が発散する。このため、GFF の議論では test function、円平均、または分布としての作用を使う。

SLE と結合するときは、曲線を見た後の場が「曲線の片側で条件付き平均を持つ GFF」と「残った揺らぎを持つ独立な GFF」に分かれるという構造が現れる。これは、曲線の過去を消して未来を標準領域へ戻す Loewner の考えと似ているが、対象は曲線から場へ変わっている。似ているという直観を、同じ定理だと読み替えてはいけない。

本章の到達点

本章で解決した問いは、GFF が点ごとの関数ではないにもかかわらず、円平均と条件付き平均を通じて SLE\(_4\) の境界線と結びつく理由である。残った問いは、この結びつきをどの定理として借りるかである。次章では、SLE4-GFF 結合を外部定理として位置づける。