第14章 ループ消去ランダムウォークと SLE2
第14章 ループ消去ランダムウォークと SLE2
STATUS: この節の主張は、定理・引用定理・発見法・予想を区別して読む。 STATUS: スケーリング極限や連続極限のうち本章で証明していない入力は、本文中で外部入力として扱う。
ループ消去ランダムウォーク(loop-erased random walk, LERW)は、ランダムウォークの経路から、ループができるたびにそのループを消して得る単純路である。たとえば \[ 0,1,2,1,3 \] と進んだ場合、\(1,2,1\) のループを消し、\(0,1,3\) が残る。消去は時間順に行うため、単なる集合操作ではない。
LERW にも領域マルコフ性が残る。最初の一部を知ったあと、残りは、未訪問領域でのランダムウォークを条件付け、再びループ消去したものとして記述できる。これは Schramm 分類原理に入るための重要な入力である。
証明の構造は次である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 入力 | planar LERW、chordal boundary condition |
| 出力 | LERW -> SLE\(_2\) |
| 主要道具 | 離散 Green 関数、到達確率、マルチンゲール観測量、UST との Wilson のアルゴリズム |
| 難所 | 格子 Green 関数の境界漸近、駆動過程の同定、曲線回復 |
| 本教材で証明しない部分 | Lawler-Schramm-Werner の完全証明 |
| 下流での使い方 | UST Peano curve -> SLE\(_8\)、双対性、臨界指数 |
LERW と UST は Wilson のアルゴリズムで結びつく。LERW の枝を積み上げると uniform spanning tree が得られ、その Peano 曲線の極限は SLE\(_8\) である (Lawler ほか 2004年)。一方、self-avoiding walk -> SLE\(_{8/3}\) は予想であり、LERW と同じ証明済みの棚に置いてはいけない。
ループ消去は領域マルコフ性を壊さない
LERW は、ランダムウォーク全体を見てからループを消すため、一見すると Markov 性を失うように見える。しかし、先頭部分を固定した後の残りは、未訪問領域で終点へ到達するランダムウォークを走らせ、そのループ消去を取ることで記述できる。これが LERW の領域マルコフ性である。
この性質は percolation の領域マルコフ性と形が似ているが、入力は違う。percolation では未探索セルの独立性が直接使われる。LERW では、ランダムウォークの Markov 性と loop-erasure の時間順序が使われる。異なる離散模型から同じ Schramm 分類原理へ入れる点が重要である。
Green 関数と到達確率
LERW の収束証明では、ランダムウォークがどの境界弧へ当たるか、ある点を訪問する確率がどうスケールするかを調べる。これらは離散調和関数や Green 関数で表される。格子幅を小さくすると、離散調和関数は連続調和関数へ近づく。
この調和性が、SLE 側のマルチンゲールとつながる。percolation で Smirnov 観測量が担った役割を、LERW では Green 関数や到達確率に基づく観測量が担う。極限で得られるマルチンゲールが SLE\(_2\) の生成作用素と一致するため、\(\kappa=2\) が同定される。
UST Peano と SLE8
Wilson のアルゴリズムは、ループ消去ランダムウォークを使って uniform spanning tree を生成する手続きである。一本の LERW は木の枝に対応する。平面上の UST と双対木を同時に見ると、その間を走る Peano 曲線が現れる。この Peano 曲線は領域を埋めるため、SLE 側では \(\kappa=8\) と対応する。
LERW -> SLE\(_2\) と UST Peano -> SLE\(_8\) は別の曲線の主張だが、同じ UST 構造を通じて結びついている。単純な枝の極限が \(\kappa=2\)、木と双対木の間を埋める境界の極限が \(\kappa=8\) である。
ループ消去の時間順序を確認する
ループ消去は、歩行の像から単純な部分集合を選ぶ操作ではない。時刻列 \(\eta(0),\eta(1),\ldots\) を順に読み、最初に既訪点へ戻った時刻までの閉路を消し、残った路の末尾から再開する。後の時刻に見つかったループが、すでに残した前半の順序を変えることはない。この時間順序が、LERW の領域マルコフ性と単純性を支える。
境界へ到達するランダムウォークを条件付けると、未訪問領域の形状は歩行の過去に依存する。しかし、その過去を固定してから再び loop-erasure を取ると、未来の LERW は「新しい領域で同じ手続き」として表せる。percolation の未探索セル独立性とは異なる仕組みだが、標準化後の未来を再利用できるという点で Schramm 分類と同じ入口に立つ。
LERW と UST の二つの極限
Wilson のアルゴリズムで一本の木の枝を作るとき、ランダムウォークの軌跡を loop-erasure したものが枝になる。したがって、枝を局所的に見ると LERW と SLE\(_2\) が現れる。一方、木と双対木を同時に走査して得られる Peano 曲線は、一本の枝ではなく平面の各領域を順に分ける空間充填曲線である。
同じ UST から二つの異なる曲線法則が出ることは、模型名だけで \(\kappa\) を決めてはいけない例である。対象が枝なのか、木と双対木の間の走査曲線なのか、境界条件が wired なのか free なのかを明示して初めて、SLE\(_2\) と SLE\(_8\) の対応が意味を持つ。
本章の到達点
本章で解決した問いは、LERW の領域マルコフ性、Green 関数、UST との関係がどのように SLE\(_2\) と SLE\(_8\) へつながるかである。残った問いは、どの対応が定理で、どの対応が予想かを模型ごとに整理することである。次章では、普遍性という語の範囲を分ける。