第2部 Landau 理論は何を説明し、なぜ破れるのか

1. 最小の現象論

強磁性体の秩序変数 \(m\) に対し、外場がなければ \(m\mapsto-m\) の対称性がある。臨界点近傍で自由エネルギー密度が \(m\) の解析関数なら、奇数次を除いて

\[ f(m;t,h)=f_0(t)+\frac{a_0t}{2}m^2+ \frac{u}{4}m^4-hm+\cdots, \qquad a_0>0, u>0 \]

と展開できる。\(u>0\) は大きな \(|m|\) で安定にする最小条件である。\(m^6\) 以降を捨てたのは、それらが常に小さいからではない。\(m\to0\) の連続転移近傍で、\(u\) が非零なら低次項が主導すると仮定したからである。\(u=0\) へも調整する tricritical point では \(m^6\) 項が必要になる。

この展開は、粗視化した秩序変数を固定した拘束付き分配関数から得る自由エネルギーを、\(m=0\) 近傍の解析関数として展開している、という仮定に基づく [Phenomenological analytic expansion] である。例えば有限体積で \(m=N^{-1}\sum_i s_i\) を指定して

\[ e^{-\beta V f(m,T)} =\sum_{\{s_i\}}\delta\!\left(m-\frac1N\sum_i s_i\right)e^{-\beta H} \]

と定義すれば、\(f(m,T)\) が coarse-grained free energy である。臨界点で二次係数が消えるよう温度原点を選ぶと、解析性から \(r(T)=r_1(T-T_c)+O((T-T_c)^2)\) となる。\(r_1\ne0\) なら一次の範囲で \(a\propto t\) と書ける。非解析性そのものは最終的な熱力学極限と長距離揺らぎから生じるので、ここでの解析展開は平均場近似の入力である。

Landau 理論の核心は、空間依存する揺らぎをいったん無視し、巨視的な一様 \(m\) を自由エネルギーの最小化で決めることである。

2. 極値と平均場指数

\(h=0\) で

\[ \frac{\partial f}{\partial m}=a_0tm+um^3 =m(a_0t+um^2)=0. \]

\(t>0\) では \(m=0\) が安定である。\(t<0\) では

\[ m^2=-\frac{a_0t}{u},\qquad m_0=\pm\sqrt{\frac{a_0}{u}}(-t)^{1/2}. \]

よって平均場の秩序変数指数は \(\beta_{\rm MF}=1/2\) である。

感受率は平衡解の周りの曲率から得られる。状態方程式

\[ h=a_0tm+um^3 \]

を微分すると

\[ \chi=\frac{\partial m}{\partial h} =\frac1{a_0t+3um^2}. \]

\(t>0\) では \(m=0\) だから \(\chi=(a_0t)^{-1}\)。\(t<0\) では \(m^2=-a_0t/u\) だから

\[ \chi=\frac1{-2a_0t}=\frac1{2a_0|t|}. \]

両側で \(\gamma_{\rm MF}=1\) だが、振幅比は \(2\) である。\(t=0\) では \(h=um^3\) なので \(m\sim h^{1/3}\)、従って \(\delta_{\rm MF}=3\)。

自由エネルギーの特異部分は、\(t<0\) の極小値を代入して

\[ f_{\min}-f_0 =\frac{a_0t}{2}\left(-\frac{a_0t}{u}\right) +\frac{u}{4}\left(\frac{a_0^2t^2}{u^2}\right) =-\frac{a_0^2t^2}{4u}. \]

二回温度微分した比熱は有限の跳びをもつので \(\alpha_{\rm MF}=0\) と数える。

3. 空間変化を入れる

局所的秩序変数 \(\phi(x)\) を導入すると Landau–Ginzburg 汎関数は

\[ \mathcal F[\phi]=\int d^dx\left[ \frac c2(\nabla\phi)^2+ \frac{a_0t}{2}\phi^2+ \frac u4\phi^4-h\phi \right]. \]

勾配項は隣接領域で秩序変数が急変することへのエネルギー費用である。\(c>0\) を仮定すると滑らかな配置が好まれる。格子Ising相互作用からこの項が出る途中式は第6部 §1で導く。ここでは長波長場へ置き換えた後の最小の局所項として用いる。平均場解の周り \(\phi=m_0+\delta\phi\) で二次まで取れば、Fourier 空間で揺らぎの自由エネルギーは

\[ \mathcal F^{(2)}=\frac12\int\frac{d^dk}{(2\pi)^d} (ck^2+r_{\rm eff})|\delta\phi(k)|^2 \]

となる。Gaussian 積分または equipartition から

\[ G(k)=\langle|\delta\phi(k)|^2\rangle =\frac{k_{\mathrm B}T}{ck^2+r_{\rm eff}}. \]

分母を \(c(k^2+\xi^{-2})\) と比較すると

\[ \xi=\sqrt{\frac c{r_{\rm eff}}}\propto |t|^{-1/2}, \]

よって \(\nu_{\rm MF}=1/2\)。この議論は揺らぎを完全に捨てたわけではなく、相互作用する揺らぎを Gaussian(二次)近似に置き換えたものである。

4. 成功と失敗

Landau 理論は、対称性、秩序変数、相の安定性、連続転移と一次転移の現象論、外場への応答を統一して整理する。空間次元が十分高い場合や長距離相互作用、あるいは有効配位数が大きい場合には指数まで正しい。

しかし短距離相互作用をもつ三次元 Ising 普遍性クラスの指数は平均場値から明確にずれる。さらに二次元 Ising 模型では exact に \(\beta=1/8\)、\(\nu=1\)、\(\eta=1/4\) であり、平均場値 \(1/2,1/2,0\) とは一致しない。原因は単に係数 \(a_0,u\) の選び方ではない。臨界点で全スケールの揺らぎが結合し、「一様な代表値の周りの小さい独立揺らぎ」という仮定が崩れるからである。

5. Ginzburg 判定

平均場近似が自己無撞着であるには、相関体積 \(\xi^d\) 内の秩序変数揺らぎが平均秩序 \(m_0^2\) より小さい必要がある。長波長の揺らぎを概算すると

\[ \langle(\delta\phi)^2\rangle_{k\lesssim\xi^{-1}} \sim k_{\mathrm B}T \int_0^{\xi^{-1}}\frac{d^dk}{(2\pi)^d} \frac1{ck^2+r}. \]

\(r\sim c\xi^{-2}\)、\(d^dk=S_{d-1}k^{d-1}dk\) を用い、\(k=q/\xi\) と置けば

\[ \langle(\delta\phi)^2\rangle_{k\lesssim\xi^{-1}} \sim \frac{k_{\mathrm B}T}{c}\xi^{2-d} \int_0^1dq\,\frac{q^{d-1}}{1+q^2}. \]

最後の積分は固定した \(d>0\) で有限の無次元定数である。一方、平均場では \(m_0^2\sim |t|/u\)、\(\xi\sim|t|^{-1/2}\) なので比は

\[ \frac{\langle(\delta\phi)^2\rangle}{m_0^2} \sim \text{const.}\times u\,|t|^{(d-4)/2}. \]

\(d>4\) なら \(t\to0\) で比はゼロへ行き、平均場は漸近的に改善する。\(d<4\) なら発散し、どれほど係数が小さくても十分臨界点へ近づけば破綻する。\(d=4\) は marginal で対数補正が生じる。これが \(\phi^4\) 理論の上部臨界次元 \(d_c=4\) の最初の姿である。

[Asymptotic self-consistency estimate] Ginzburg 判定は「平均場が正確か」を証明する定理ではなく、Gaussian 揺らぎの見積りを使い、無視した相互作用効果が平均場の仮定と矛盾しない範囲を判定する。\(|t|\) の冪が与える漸近的判定であり、臨界領域の境界の数値係数は非普遍的である。

出典案内

解析的自由エネルギー展開と対称性分類は Landau (1937) に遡る。平均場からの揺らぎ補正、Ginzburg判定、\(4-\epsilon\) 展開との関係は Wilson–Kogut (1974) が標準的な出典である。

章末整理

この章で分かったこと

Landau 理論は対称性から平均場指数を導けるが、\(d<4\) の臨界領域では相互作用する長波長揺らぎにより自己無撞着性を失う。

その結果、何が説明できるようになったか

\(d=4\) が特別になる兆候と、三次元で係数の調整だけでは指数の不一致を直せない理由が見えた。

よくある誤解

  • Landau 理論は「揺らぎを一切含まない」だけではない。Gaussian 揺らぎを扱う拡張もあるが、臨界的相互作用を正しく再総和できない。
  • \(d>4\) で何も揺らがないわけではない。指数を変えるほど強くないという意味である。

次の疑問

相関長が発散すると、なぜあらゆる長さスケールが関与し、指数関数ではなくべき則が現れるのか。

まだ説明できていないこと

相互作用する揺らぎを全スケールにわたり再編成し、非平均場指数を求める方法は未説明である。

次に自然に出てくる疑問

発散する相関長から scale invariance とべき則はどう導かれるか。