第13部 有限サイズ scaling――無限大の発散を有限系でどう見るか

1. 問い

理論は \(\xi\to\infty\)、\(\chi\to\infty\) と述べるが、実験試料も数値格子も有限である。有限系では分配関数は通常解析的で、真の発散は起きない。それでも有限サイズのデータから \(T_c\) と臨界指数を推定できるのはなぜか。

答えは、系の大きさ \(L\) が新しい relevant な長さとして相関長を切るからである。有限サイズ効果を邪魔な誤差ではなく、RG が予測する scaling function として利用する。この構成の古典的定式化は Fisher–Barber (1972) に遡る。

2. \(L\) を含む斉次性

無限系の特異自由エネルギー密度を

\[ f_s(t,h)=b^{-d}f_s(b^{y_t}t,b^{y_h}h) \]

と書いた。有限系では無次元比 \(L/b\) も引数に残り、

\[ f_s(t,h,L)=b^{-d}f_s(b^{y_t}t,b^{y_h}h,L/b) \]

となる。\(b=L\) を選ぶには、\(L\) を格子間隔などの基準長で無次元化しておく。すると

\[ f_s(t,h,L)=L^{-d}\mathcal F(tL^{y_t},hL^{y_h}). \]

\(y_t=1/\nu\) だから温度の scaling variable は

\[ x=tL^{1/\nu}. \]

この組合せの意味は \(L/\xi\) と同じである。実際 \(\xi\sim|t|^{-\nu}\) より

\[ \frac L\xi\sim L|t|^\nu=|tL^{1/\nu}|^\nu. \]

したがって、有限サイズ効果は \(L\) と \(\xi\) の競合で整理される。

3. 磁化と感受率

\(m=-\partial f_s/\partial h\) は、有限の scaled field \(hL^{y_h}\) を保つ場合

\[ m(t,h,L)=L^{-d+y_h} \mathcal M(tL^{1/\nu},hL^{y_h}). \]

\(\beta/\nu=d-y_h\) を使えば

\[ m(t,h,L)=L^{-\beta/\nu} \mathcal M(tL^{1/\nu},hL^{y_h}). \]

同様に二回微分して

\[ \chi(t,L)=L^{-d+2y_h}\mathcal X(tL^{1/\nu}) =L^{\gamma/\nu}\mathcal X(tL^{1/\nu}). \]

対称性を破る境界条件または \(h\to0^+\) の極限順序を指定すれば、\(h=0\) の一変数 scaling functionを使える。一方、周期境界・厳密な零場の有限系では \(\mathbb Z_2\) 対称性により signed average \(\langle m\rangle=0\) である。数値解析では \(\langle|m|\rangle\) または \(m_{\rm rms}=\sqrt{\langle m^2\rangle}\) を使い、臨界点 \(t=0\) で

\[ \langle|m|\rangle\propto L^{-\beta/\nu},\qquad \chi(0,L)\propto L^{\gamma/\nu}. \]

無限系で温度に対して発散する量が、有限系では \(L\) の冪として増大する。これにより、複数の \(L\) のデータを使って指数比を測れる。

4. pseudo-critical point のずれ

有限 \(L\) で感受率が最大になる温度を \(T_c(L)\) とする。scaling function \(\mathcal X(x)\) の最大が \(x=x_*\) なら

\[ t_c(L)L^{1/\nu}=x_*, \]

従って

\[ T_c(L)-T_c(\infty)\propto L^{-1/\nu}. \]

最大点は真の特異点ではなく pseudo-critical point である。上の \(L^{-1/\nu}\) は scaling function の極値が非零 \(x_*\) にあり、その振幅が消えない標準的場合の leading shift である。対称性や境界条件により \(x_*=0\) となる場合、leading 振幅が消え、irrelevant correction などが観測される shift を支配しうる。

5. Binder cumulant

有限系では対称性のため \(\langle m\rangle=0\) になりやすい。絶対値 \(\langle|m|\rangle\) のほか、無次元比

\[ U_4=1-\frac{\langle m^4\rangle}{3\langle m^2\rangle^2} \]

を使う。\(U_4\) は leading canonical dimension が相殺されるので

\[ U_4(t,L)=\mathcal U(tL^{1/\nu})+\text{corrections}. \]

異なる \(L\) の曲線は理想的には \(t=0\) 近傍で交差する。交点の drift は irrelevant operator と解析的背景の補正を含む。単一交点を目視して \(T_c\) を断定せず、補正項を含む fit と境界条件依存を検討する。

6. data collapse

周期境界・零場なら、正しい \(T_c,\nu,\beta\) を選び、横軸 \(x=tL^{1/\nu}\)、縦軸 \(\langle|m|\rangle L^{\beta/\nu}\) を描けば

\[ \langle|m|\rangle L^{\beta/\nu}=\mathcal M_{|m|}(x) \]

なので異なる \(L\) の点が一本の曲線へ重なる。これが data collapse である。しかし調整parameterが多いと見かけの collapse を作れる。fit range、correction exponent、共分散、推定法を明記しなければ定量的証拠にならない。

7. correction to scaling

leading irrelevant eigenvalueを \(y_{\rm irr}=-\omega<0\) とすると

\[ O(t,L)=L^{\rho_O} \left[F_O(tL^{1/\nu})+L^{-\omega}G_O(tL^{1/\nu})+\cdots\right]. \]

小さい系を含めると \(L^{-\omega}\) が無視できず、有効指数が drift する。有限サイズ scaling は「有限系でも無限系の式をそのまま使う」方法ではなく、有限系固有の scaling function と corrections を同時に扱う方法である。

証拠水準

  • finite-size scaling ansatz: bulk fixed pointと単一相関長を仮定する [Scaling hypothesis]。
  • Binder crossingとdata collapse: correction項・境界条件を含めて検証する [Numerical analysis method]。
  • pseudo-critical shift \(L^{-1/\nu}\): 一般的leading formだが、対称性や定義でleading amplitudeが消える場合を除く [Asymptotic scaling result under assumptions]。

章末整理

この章で分かったこと

有限系では発散は丸められるが、\(L/\xi\) による普遍的 scaling に置き換わる。

その結果、何が説明できるようになったか

有限格子から \(T_c,\nu,\beta/\nu,\gamma/\nu\) を推定する論理と、data collapse の意味を説明できる。

まだ説明できていないこと

具体的 Monte Carlo estimator、自相関時間、統計誤差、boundary RG は扱っていない。

よくある誤解

  • 有限系の peak は真の発散ではない。
  • 曲線が目視で重なるだけでは指数の高精度決定にならない。
  • 小さい \(L\) の drift は単なるノイズとは限らず、irrelevant operator の情報を含む。

次に自然に出てくる疑問

次元の異なる Ising 模型では、相転移と臨界指数が具体的にどう変わるか。