第9部 量子場理論の繰り込み、running coupling、EFT

1. 統計場理論と量子場理論が出会う理由

\(d\) 次元古典統計系の Boltzmann 重み \(e^{-S_E}\) と、Euclidean 化した \(d\) 次元量子場理論の functional integral は同じ数学的形をもつ。さらに \(d\) 次元量子系の零温度問題は虚時間を加えた \(d+1\) 次元古典系と関係する。ただし時間の異方性や動的指数 \(z\) があるため、常に単純な \(d+1\) 次元等方模型になるとは限らない。

2. bare と renormalized

正則化 cutoff \(\Lambda\) を置いた Lagrangian の \(g_0,m_0\) を bare parameter と呼ぶ。これらは「装置が直接測る真の値」ではなく、regulator と cutoff に依存する入力である。観測条件を定め、ある尺度 \(\mu\) で Green 関数や散乱振幅が指定値を取るように定義した \(g(\mu),m(\mu)\) が renormalized parameter である。

連続極限 \(\Lambda\to\infty\) を保つには、bare parameter を cutoff とともに調整することがある。発散する bare quantity が単独で物理量になる必要はない。予言は renormalized observables の有限な関係にある。

3. Callan–Symanzik の RG

probe scaleに対するrunning couplingの模式図

renormalization scale \(\mu\) は計算上導入した任意尺度であり、物理的 Green 関数は裸の理論を固定すればその選択に依存しない。この条件から概略

\[ \left[ \mu\frac{\partial}{\partial\mu} +\beta(g)\frac{\partial}{\partial g} -n\gamma_\phi(g) +\gamma_m(g)m\frac{\partial}{\partial m} \right]G^{(n)}=0 \]

を得る。定義

\[ \beta(g)=\mu\left.\frac{dg}{d\mu}\right|_{g_0} \]

で bare parameter を固定することが重要である。

running coupling は時間とともに基本定数が変化する意味ではない。異なる probe scale で同じ物理を少ない対数補正で表すときの有効 coupling である。大きな \(\log(Q/\mu)\) を避けるよう \(\mu\sim Q\) を選び、RG 方程式で多数次数の logarithm を再総和する。

二つの flow parameter の向き

本書の Wilson 流では

\[ \ell=\log\frac{\Lambda_{\rm UV}}k \]

を使うので、\(\ell\) が増えるほど IR、すなわち小さい cutoff \(k\) へ進む。一方 Callan–Symanzik の \(\beta_{\rm CS}=\mu\,dg/d\mu\) は \(\mu\) が増える UV 向きに定義される。同じ coupling 座標を \(k=\mu\) と同一視できる場合でも

\[ \frac{dg}{d\ell}=-\mu\frac{dg}{d\mu}=-\beta_{\rm CS}(g) \]

となる。従って「beta function が正なら relevant」のように、flow parameter の定義を示さず符号だけを読むことはできない。統計力学の粗視化と QCD の高エネルギー極限が逆向きに語られるのはこのためである。

4. Wilsonian RG との関係と差

Wilsonian RG は cutoff shell を実際に積分し、cutoff 依存の action \(S_\Lambda\) に全許容演算子を生成する。Callan–Symanzik RG は renormalized correlation function の \(\mu\) 依存を記述し、minimal subtraction では各段階で物理的 shell を消しているとは限らない。

両者は scale dependence、fixed point、anomalous dimension、universality を共通に捉えるが、操作を逐語的に同一視してはいけない。低エネルギー observables が短距離 regulator に依存しないことを、別の座標系・scheme で表す統合的な視点を与える。

観点 Wilson RG MS / 摂動論的繰り込み
固定するもの 長距離分配関数・低運動量相関 bare量を固定したrenormalized相関
動かすもの cutoff \(\Lambda e^{-\ell}\) と全Wilson係数 subtraction scale \(\mu\) とrenormalized parameter
cutoffの役割 積分するmodeの境界 regulatorまたは補助的発散制御
renormalization condition coarse-graining規則・場の再規格化 MS、物理点条件など
scheme dependence kernel・cutoff shape・座標 subtraction scheme・coupling定義
連続極限/UV completion cutoffを上げつつ臨界面へtune bare parameterを調整し有限相関を保つ
flowの向き \(\ell\) 増加がIR \(\mu\) 増加がUV

5. scheme dependence

coupling を \(\tilde g=g+ag^2+\cdots\) と再定義すれば beta function の高次係数は変わる。固定点座標も変わる。一方、exact な固定点での scaling dimension や正しく計算した observables では scheme dependence が相殺される。有限次数で残る scheme dependence は truncation uncertainty の一部である。

6. Effective Field Theory

重い尺度 \(M\) と低い観測エネルギー \(E\ll M\) があるとき、重い自由度を積分し

\[ \mathcal L_{\rm EFT}=\mathcal L_{\rm light}^{(\le d)} +\sum_i\frac{C_i(\mu)}{M^{\Delta_i-d}}\mathcal O_i \]

と書く。対称性が許す演算子をすべて含めるが、\(E/M\) の power counting により所望精度で有限個だけ必要になる。高次元演算子は「不整合」ではなく、cutoff 以下で予測精度を系統化する項である。

RG固有値との対応は一行で書ける。静的な局所摂動を \(g_i\int d^dx\,\mathcal O_i\) と書くと

\[ y_i=d-\Delta_i,\qquad g_i(\ell)=g_i(0)e^{y_i\ell}. \]

EFTで \(\Delta_i>d\) の演算子が \(E/M\) により

\[ \frac{C_i}{M^{\Delta_i-d}}\mathcal O_i \quad\Rightarrow\quad \Delta\mathcal A_i/\mathcal A_{\rm lead}\sim (E/M)^{\Delta_i-d} \]

と抑制されることは、IRへ進むと \(y_i<0\) のirrelevant couplingが \(e^{y_i\ell}\) で小さくなることと同じ内容である [Power-counting equivalence]。

matching と running

  1. \(\mu\sim M\) で UV 理論と EFT の amplitude または Green 関数を一致させ、Wilson coefficient \(C_i(M)\) を決める。
  2. EFT の RG 方程式で \(C_i\) を低尺度へ走らせ、大きな対数を再総和する。
  3. 低尺度で matrix element と組み合わせ、\(\mu\) 依存が所定次数で消える observable を得る。

mass-independent scheme では重い粒子の寄与が自動的に式から消えないことがあり、threshold matching が必要である。また非 decoupling の条件もあるため「重いものは常に影響ゼロ」とは言えない。

7. renormalizable の意味の変化

古い狭い見方では、有限個の counterterm で cutoff を無限大へ送れる理論だけを fundamental とみなしがちだった。Wilsonian/EFT の見方では、cutoff 以下の有限精度の予言に必要な演算子は有限個であり、irrelevant operators の効果は尺度比で抑制される。renormalizability は、低エネルギーで relevant/marginal operators が主導することの表現として理解できる。

出典案内

running chargeの歴史は Gell-Mann–Low (1954)、renormalized Green関数のscale方程式は Callan (1970) と Symanzik (1970) を参照する。EFTの一般的Lagrangianは Weinberg (1979)、重い自由度のdecouplingは仮定付きで Appelquist–Carazzone (1975) に基づく。

章末整理

この章で分かったこと

renormalization は発散を隠す技法だけでなく、尺度を変えたときの有効記述を結ぶ構造である。Wilsonian RG は EFT の power counting と UV 詳細の抑制を自然に説明する。

よくある誤解

  • bare parameter は直接観測される真の定数ではない。
  • running coupling は時間変化ではない。
  • nonrenormalizable operator は禁止項ではない。
  • scheme dependence があることは observable が任意という意味ではない。

その結果、何が説明できるようになったか

発散処理、尺度依存、Wilsonian coarse graining、EFT の matching と running を区別して接続できる。

まだ説明できていないこと

強結合 QFT、gauge theory の具体的 beta function、非摂動 RG の解法は未説明である。

次に自然に出てくる疑問

確率分布の極限定理や CFT は固定点像をどこまで厳密化するか。