第6部 Landau–Ginzburg–Wilson 場の理論と Fourier 空間
1. 格子 Ising から連続場へ
格子 Ising 模型
\[ H=-J\sum_{\langle ij\rangle}s_is_j-h\sum_i s_i,\qquad s_i=\pm1 \]
から、長距離で使う連続場を作る。辺 \(\langle ij\rangle\) ごとに、\(s_i^2=s_j^2=1\) を使うと
\[ -Js_is_j=\frac J2(s_i-s_j)^2-J \]
である。定数 \(-J\) は分配関数の全体因子を変えるだけなので捨てられる。格子点 \(x_i\)、最近接方向 \(\hat e_\mu\) について滑らかな coarse-grained field \(\phi(x)\) を置き、
\[ s_{i+\hat\mu}-s_i\;\longrightarrow\;a\,\partial_\mu\phi(x_i)+O(a^2) \]
と展開すると
\[ \sum_{\langle ij\rangle}(s_i-s_j)^2 \longrightarrow a^{2-d}\int d^dx\,(\nabla\phi)^2 \]
を得る。係数 \(Ja^{2-d}/2\) は場と座標の規格化で正の定数 \(c/2\) に吸収できる。これが第2部 §3で用いた勾配項の格子上の起源である。
局所部分は、block \(B_X\) 内のspin和
\[ \Phi_X=\frac1{|B_X|}\sum_{i\in B_X}s_i \]
を固定した拘束付き分配関数
\[ e^{-S_{\rm loc}(\{\Phi_X\})} =\sum_{\{s_i\}} \prod_X\delta\!\left(\Phi_X-\frac1{|B_X|}\sum_{i\in B_X}s_i\right) e^{\beta J\sum_{\langle ij\rangle}s_is_j+\beta h\sum_i s_i} \]
から定義できる。blockサイズが \(a\ll ba\ll\xi\) を満たすとき、隣接blockの差は勾配項へ、同一block内の寄与は局所ポテンシャルへ展開される。\(h=0\) でspin反転対称性があれば局所ポテンシャルは偶関数であり、局所性と解析性の仮定の下で
\[ V(\phi)=V_0+\frac r2\phi^2+\frac u{4!}\phi^4+\frac v{6!}\phi^6+\cdots \]
と書ける。\(\phi^4\) で「足りる」とは、安定性のため \(u>0\) を残し、\(\phi^6\) 以上や高階微分項が Wilson–Fisher 固定点近傍で irrelevant になる範囲の leading singularity を計算する、という意味である。係数 \(r,u,v,\ldots\) はblockの取り方、格子、温度などに依存する非普遍量である。
この写像は厳密な恒等変形ではなく、局所性、短距離相互作用、単一scalar秩序変数、解析的局所ポテンシャル、十分大きい相関長という仮定を含む [Effective-field-theory construction / model-dependent identification]。特定の格子模型がこの連続理論の同じ固定点へ入ることは、第12部 §6の「同定」に属する。
以上を踏まえ、相関長が格子間隔 \(a\) より十分長い \(\xi\gg a\) 領域では、数格子を平均した秩序変数を滑らかな場 \(\phi(x)\) で表す。Ising 型の一成分秩序変数に対する Euclidean action を
\[ S[\phi]=\int d^dx\left[ \frac12(\nabla\phi)^2+ \frac r2\phi^2+ \frac u{4!}\phi^4-h\phi +\sum_i g_i\mathcal O_i \right] \]
と書く。温度因子は \(S=\beta\mathcal H\) に吸収した。
- \((\nabla\phi)^2/2\): 空間変化の費用。係数は座標・場の規格化で 1 にした。
- \(r\phi^2/2\): Gaussian の「質量」。臨界面からの温度型距離に対応するが、相互作用下の臨界点は一般に裸の \(r=0\) ではない。
- \(u\phi^4/4!\): 揺らぎ同士の局所相互作用。\(4!\) は diagram の組合せ係数を簡単にする規約。
- \(-h\phi\): 対称性を明示的に破る外場。
- \(\mathcal O_i\): 対称性が許す高次場・高階微分演算子。
この action はミクロ理論の恒等的書き換えとは限らない。長距離 observables を同じ精度で再現する effective theory である。係数の数値は cutoff と coarse-graining の定義に依存する。
2. functional integral
分配関数は形式的に
\[ Z=\int\mathcal D\phi\,e^{-S[\phi]} \]
である。格子正則化なら \(\mathcal D\phi=\prod_i d\phi_i\) という有限次元積分から極限を取れる。連続表示の \(\mathcal D\phi\) は通常の Lebesgue 測度を無限個掛けたものではなく、正則化と極限を伴う記法である。厳密性が必要な場合は有限格子・有限体積から始める。
自由場 \(u=0\) なら Fourier mode ごとに独立な Gaussian 積分になる。相互作用 \(u\ne0\) では \(\phi^4\) が異なる運動量 mode を結合するため、単純な積にならない。
3. Fourier 変換と cutoff
\[ \phi(x)=\int_{|k|<\Lambda}\frac{d^dk}{(2\pi)^d} e^{ik\cdot x}\phi(k) \]
とし、UV cutoff \(\Lambda\sim\pi/a\) を置く。格子由来なら Brillouin zone が自然な cutoff になる。連続 EFT では cutoff は「この記述を信用する最大運動量」を表す。cutoff が物理的原子間隔に対応する場合も、計算上の regulator にすぎない場合もある。
二次作用は
\[ S_0=\frac12\int_{|k|<\Lambda}\frac{d^dk}{(2\pi)^d} (k^2+r)\phi(k)\phi(-k). \]
ここから propagator
\[ \langle\phi(k)\phi(k')\rangle_0 =(2\pi)^d\delta^{(d)}(k+k')\frac1{k^2+r} \]
が得られる。delta 関数は並進不変性による運動量保存を表す。
4. canonical dimension
作用を無次元とし、運動量次元を \([x]=-1\)、\([\partial]=1\) と数える。運動項から
\[ -d+2+2[\phi]=0 \quad\Rightarrow\quad [\phi]=\frac{d-2}{2}. \]
質量係数は
\[ [r]+2[\phi]-d=0\Rightarrow[r]=2, \]
quartic coupling は
\[ [u]+4[\phi]-d=0\Rightarrow[u]=4-d. \]
よって Gaussian 固定点では \(u\) は \(d<4\) で relevant、\(d>4\) で irrelevant、\(d=4\) で marginal である。一般の \(\phi^n\) coupling は
\[ [g_n]=d-\frac{n(d-2)}2. \]
これは tree-level/canonical 分類である。相互作用固定点では量子・熱揺らぎが anomalous dimension を加え、完全な scaling dimension は canonical value と一致しない。
5. Gaussian 固定点
\(u=0,r=0\) は massless Gaussian 固定点である。実空間 propagator は \(d>2\) で
\[ G(r)\propto \frac1{r^{d-2}} \]
なので \(\eta=0\)。\(r\) の固有値は \(y_t=2\)、従って \(\nu=1/2\)。\(d>4\) では quartic 項が irrelevant なので一般の Ising 型臨界点が Gaussian 固定点に支配され、平均場指数が現れる。ただし前章の dangerously irrelevant の注意が必要である。
出典案内
Landau–Ginzburg作用、Fourier mode、cutoff、operator power countingをWilson RGへ接続する標準的導出は Wilson–Kogut (1974) を参照する。
章末整理
この章で分かったこと
長距離 Ising 型臨界現象は \(\phi^4\) effective field theory で表され、canonical dimension だけで \(d_c=4\) が現れる。Fourier mode は距離スケールを運動量 shell として分離する準備を与える。
次の疑問
高運動量 shell を実際に積分すると \(r\) と \(u\) はどのように変わり、非自明固定点はどう生まれるのか。
その結果、何が説明できるようになったか
high momentum と short distance、mass と相関長、上部臨界次元の起源を結び付けられる。
まだ説明できていないこと
相互作用を含む shell 積分と anomalous dimension は未計算である。
よくある誤解
- cutoff は常に実在する最小長とは限らない。
- canonical dimension は相互作用固定点での完全な scaling dimension ではない。
次に自然に出てくる疑問
shell 積分の各係数はどの Wick contraction から生じるか。