第23部 EFT matching――重い場を積分して係数を決める

1. toy UV理論

軽い実scalar \(\phi\) と質量 \(M\) の重いscalar \(H\) を含むEuclidean作用を

\[ S[\phi,H]=S_{\rm light}[\phi] +\int d^dx\left[ \frac12H(-\partial^2+M^2)H +\frac g2H\phi^2 \right] \]

とする。全potentialが安定になるよう \(S_{\rm light}\) に十分な \(\phi^4\) 項などがあると仮定する。この模型は重い場の積分を解析的に行えるmatchingの教材である。

観測する外部運動量を \(E\) とし、\(E\ll M\) を展開parameterとする。EFTの目的は \(H\) を外線から消し、そのvirtual effectを \(\phi\) だけの局所演算子で再現することである。

2. Gaussian積分によるexactな非局所有効作用

演算子

\[ A=-\partial^2+M^2, \qquad J=\frac g2\phi^2 \]

を使うと重い場部分は \(H A H/2+JH\) である。平方完成

\[ \frac12HAH+JH =\frac12(H+A^{-1}J)A(H+A^{-1}J) -\frac12JA^{-1}J \]

により

\[ \int\mathcal DH\,e^{-S[\phi,H]} \propto e^{-S_{\rm eff}[\phi]}, \]

\[ S_{\rm eff}[\phi] =S_{\rm light}[\phi] -\frac{g^2}{8}\int d^dx\,d^dy\, \phi^2(x)G_M(x-y)\phi^2(y), \]

\[ G_M=(-\partial^2+M^2)^{-1} \]

を得る。\(H\) が二次式だけに現れる範囲では、この非局所作用はexactである。functional determinantはここでは \(\phi\) に依存しない定数である。

3. derivative expansion

低運動量では

\[ \frac1{M^2-\partial^2} =\frac1{M^2} \left(1+\frac{\partial^2}{M^2} +\frac{\partial^4}{M^4}+\cdots\right) \]

と展開できる。従って

\[ S_{\rm eff}=S_{\rm light} -\frac{g^2}{8M^2}\int d^dx\,\phi^4 -\frac{g^2}{8M^4}\int d^dx\, \phi^2\partial^2\phi^2+O(M^{-6}). \]

このGaussian toyでは運動量表示の幾何級数であり、\(|p^2|<M^2\) なら収束する低運動量Taylor展開である。一般のEFTのloop展開やthreshold近傍まで同じ収束性を仮定してはいけない。

境界項を捨てて部分積分すれば

\[ -\int\phi^2\partial^2\phi^2 =\int[\partial_\mu(\phi^2)]^2, \]

なので、次の項は正符号の高階微分演算子になる。\(H\) をon shellで生成できるthreshold \(E\sim M\) ではこの低エネルギー展開を使えない。

4. amplitude matchingで係数を検算する

UV理論の \(\phi\phi\to\phi\phi\) tree amplitudeには、重い \(H\) の交換が三channelで現れる。Euclidean運動量の記号を使えば各propagatorは概略

\[ \frac{g^2}{M^2+p^2} =\frac{g^2}{M^2} \left(1-\frac{p^2}{M^2}+\cdots\right). \]

三channelの零運動量部分は局所 \(\phi^4\) vertexで再現される。相互作用を \(\lambda\phi^4/4!\) と書く規約では、上の有効作用のquartic項は

\[ \Delta\lambda=-\frac{3g^2}{M^2} \]

に対応する。符号はEuclidean作用、頂点、amplitudeの規約と一緒に確認する必要があるが、Gaussian積分と三channel計算が同じ係数を与えることが本質である。

matchingではUVとEFTを同じ外部状態・同じrenormalization scheme・同じ次数で比較する。EFT側にもlight-field loopがあり、それは両側で共通なので、差からshort-distance Wilson coefficientを抽出する。

5. operator basisと冗長性

同じ次数に複数の演算子が存在する。部分積分、低次の運動方程式、局所場の再定義によりS-matrixへ同じ効果をもつ演算子を除ける。例えば

\[ \phi^2\partial^2\phi^2 \]

と \([\partial(\phi^2)]^2\) は部分積分で等価である。basisを変えると個々のWilson coefficientは変わるが、observableは変わらない。

運動方程式を使う操作はoff-shell Green関数を単純には保存しない一方、適切な局所場再定義として扱えばon-shell observableを保存する。どのquantityをmatchingしているかを明記する必要がある。

6. power countingと誤差

演算子 \(\mathcal O_i\) の次元を \(\Delta_i\) とすると

\[ \mathcal L_{\rm EFT} =\sum_i\frac{C_i}{M^{\Delta_i-d}}\mathcal O_i. \]

典型運動量 \(E\) での寄与は、係数・loop factor・対称性による追加抑制を別にして \((E/M)^{\Delta_i-d}\) と見積もる。ただし、作用の \(1/M\) の冪とamplitudeの相対誤差を混同してはいけない。

本章の交換propagatorでは

\[ \frac{g^2}{M^2+p^2} =\frac{g^2}{M^2} \left[ 1-\frac{p^2}{M^2} +\frac{p^4}{M^4} +O\!\left(\frac{p^6}{M^6}\right) \right]. \]

\(1/M^4\) のderivative項、すなわち括弧内の \(p^2/M^2\) まで保持すると、最初の省略amplitudeは絶対的には \(g^2p^4/M^6\)、leading \(g^2/M^2\) に対する相対誤差は \(O((E/M)^4)\) である。誤差次数は、残したoperatorと観測量の次元を揃えて報告する。

対称性がlower-dimensional operatorを禁止する場合、高次元演算子がleadingになる。逆に小さい係数を「自然」と仮定するだけで誤差を過小評価してはいけない。loop matchingなら \(1/(4\pi)^2\)、複数coupling、対数もpower countingに含める。

7. matching scaleとrunning

\(\mu\sim M\) でmatchingすると \(\log(M/\mu)\) を小さくできる。その後Wilson coefficientはoperator mixingを含む

\[ \mu\frac d{d\mu}C_i(\mu) =\sum_j\gamma_{ij}C_j(\mu) \]

に従って低scaleへ走る。低エネルギーmatrix element側の \(\mu\) 依存と相殺し、observableは所定次数で \(\mu\) に依存しない。

mass-independentなMS schemeでは重い場のbeta function寄与が \(\mu<M\) で自動的に消えない。thresholdでUV理論からEFTへ切り替えるmatchingがdecouplingを実装する。Appelquist–Carazzone (1975) のdecouplingも、gauge symmetry、mass生成機構、観測量などの仮定を外して「重い粒子は常に影響ゼロ」と一般化してはならない。

8. Wilson RGとの接続

重い場を積分して非局所作用を得て、低運動量で局所演算子へ展開する操作は、Wilsonianな「短距離自由度の影響を全許容演算子へ移す」考えの具体例である。

irrelevant operatorが重要でないという意味はゼロではなく、指定精度で高いpowerに抑制されるという意味である。EFTはこの抑制を定量的な誤差予算へ変える。

証拠水準

  • 重いGaussian場の非局所作用: toy模型内の [Exact Gaussian integration]。
  • \(E/M\) derivative expansion: \(E\ll M\) の [Controlled asymptotic expansion]。
  • tree amplitude matching: 指定したoperator basisと規約の [Perturbative matching result]。
  • decoupling: Appelquist–Carazzone の仮定内の定理で、一般的な影響ゼロの主張ではない。

章末整理

この章で分かったこと

重いGaussian場をexactに積分し、非局所有効作用を \(1/M\) で展開してWilson coefficientを求められる。

その結果、何が説明できるようになったか

matching、operator basis、power counting、threshold runningを一つの具体例で接続できる。

まだ説明できていないこと

loop-level matching、gauge field、非decouplingの具体例、非摂動matrix elementは未展開である。

よくある誤解

  • 重い場を消すとは影響を捨てることではない。影響を局所係数へ移す。
  • nonrenormalizable operatorはEFTの破綻ではない。
  • matching coefficient単体はbasis・schemeに依存しうる。

次に自然に出てくる疑問

独立変数の加算と再尺度化では、Gaussian以外の固定分布と収束速度をどう分類できるか。