第3部 相関長、スケール不変性、べき則
1. 二点相関関数が測るもの
\[ G(r)=\langle\phi(x)\phi(x+r)\rangle- \langle\phi(x)\rangle\langle\phi(x+r)\rangle \]
の第二項は、平均値が非零なだけで生じる見かけの相関を取り除く。\(G(r)>0\) なら、点 \(x\) の平均からの上向き変動と、距離 \(r\) 離れた点の上向き変動が一緒に起きやすい。これは因果伝播の速度を直接表す時間相関ではなく、平衡分布の空間的統計である。
単一の孤立した massive pole が長距離を支配する等方的な Gaussian 理論、またはそれに連続的につながる相では、大きな \(r\) で Ornstein–Zernike 型の漸近形
\[ G(r)\sim \frac{e^{-r/\xi}}{r^{(d-1)/2}} \]
を取る。連続 spectrum、複数成分、異方性がある場合には前因子や複数の長さが変わりうる。\(\xi\) は相関が指数関数的に減衰する長さであり、厳密な定義は模型に応じて exponential correlation length、second-moment correlation length など複数ある。それらは標準的な一尺度 scaling が成り立つ臨界点近傍で同じ指数 \(\nu\) を与えるが、有限な非普遍係数は一致しないことがある。異なる定義で得た \(\xi\) の振幅比が、同じ普遍性クラス内で普遍量になる場合がある。
2. \(\xi\to\infty\) は何を意味するか

臨界点近傍の二点関数は、格子間隔 \(a\)、相関長 \(\xi\)、観測距離 \(r\) の階層
\[ a\ll r,\qquad a\ll \xi \]
で universal scaling form
\[ G(r,\xi)=\frac1{r^{d-2+\eta}}\Phi_\pm(r/\xi) \]
をもつと仮定する [Scaling hypothesis]。\(\phi_\pm(x)\) は \(x\ll1\) で有限値へ近づき、\(x\gg1\) で指数減衰を含む。格子間隔 \(a\) はUV cutoffであり、\(r\sim a\) の短距離構造や振幅は非普遍である。臨界極限では \(\xi/a\to\infty\) となるため、\(a\) による詳細は scaling function の非普遍な正規化や irrelevant 補正へ押し込まれる。
\(\xi\to\infty\) から直ちに完全なscale invarianceが定理として出るわけではない。第5部の固定点論法で、粗視化後の作用が固定点へ近づくという力学系的仮定を置くと、固定点で長さの再尺度化が対称性として働く。
\(\xi\) の発散は「系のすべての spin が完全に同じ向きになる」ことではない。また有限試料で実際に無限距離が存在するという意味でもない。意味は、熱力学極限で \(t\to0\) としたとき、指数減衰を支配する有限の固有長さがなくなることである。有限サイズ \(L\) では \(\xi\) は事実上 \(L\) で頭打ちになり、観測量は \(L/\xi\) の関数として有限サイズ scaling を示す。
発散の物理像は、秩序変数の集団的な領域が大小あらゆるスケールに現れることである。局所的な spin flip の振幅が無限になるわけではない。相関する領域の体積が増え、その総和である感受率が大きくなる。
3. なぜ特徴的長さがないとべき則か
臨界点で場 \(\phi\) の scaling dimension を \(\Delta_\phi\) とする。統計的スケール不変性が
\[ \phi(x)\mapsto b^{-\Delta_\phi}\phi(x/b) \]
を意味するなら、二点関数は
\[ G(br)=b^{-2\Delta_\phi}G(r) \]
を満たす。座標を基準長 \(r_0\) で無次元化し、任意の \(b>0\) に対して成立するとする。\(b=r/r_0\) と選べば
\[ G(r)=G(r_0)\left(\frac r{r_0}\right)^{-2\Delta_\phi}. \]
これが連続スケール不変性からべき則が出る最短の導出である。\(2\Delta_\phi=d-2+\eta\) と書く。
指数関数 \(e^{-r/\xi}\) には \(r\sim\xi\) という目盛りがある。拡大 \(r\mapsto br\) によって関数の形を定数倍だけで戻せない。対して \(r^{-p}\) は \((br)^{-p}=b^{-p}r^{-p}\) なので、形を保つ。
ただし逆は無条件ではない。有限範囲の近似的べき則、重い裾をもつ非臨界分布、離散スケール不変性、保存則が生む hydrodynamic tail などがある。「べき則を見たから臨界固定点」と断定せず、範囲、有限サイズ効果、代替模型を検討する必要がある。
4. Fourier 空間の意味
Fourier 変換を
\[ \phi(x)=\int\frac{d^dk}{(2\pi)^d}e^{ik\cdot x}\phi(k) \]
とする。波数 \(|k|\) の mode は波長 \(\lambda\sim2\pi/|k|\) の変動を表す。したがって high momentum は short distance、low momentum は long distance に対応する。ただし局在した構造は多数の Fourier mode の重ね合わせなので、一つの mode を一つの粒子や一地点と同一視してはいけない。
Gaussian 近似では
\[ G(k)=\frac1{k^2+\xi^{-2}} \]
(温度や規格化係数を吸収)である。\(k=0\) では \(G(0)=\xi^2\)。実空間で遠距離相関が伸びるほど、Fourier 空間では \(k=0\) 近傍が鋭くなる。臨界点で \(\xi^{-1}\to0\) になることは、有効な「質量」がゼロになることに対応する。
5. scaling 仮説と熱力学
特異自由エネルギー密度が粗視化倍率 \(b\) に対して
\[ f_{\rm s}(t,h)=b^{-d}f_{\rm s}(b^{y_t}t,b^{y_h}h) \]
と変換すると仮定する。\(b^{-d}\) は一辺を \(b\) 倍にまとめたとき単位体積当たりの独立な block 数が \(b^{-d}\) になることに対応する。\(y_t,y_h\) は温度型・磁場型 scaling field の RG 固有値である。
\(h=0\) で \(b=|t|^{-1/y_t}\) を選ぶと第一引数は \(\pm1\) になり、
\[ f_{\rm s}(t,0)\sim |t|^{d/y_t}. \]
相関長は粗視化で \(\xi\mapsto\xi/b\) だから
\[ \xi(t)=b\,\xi(b^{y_t}t)\sim |t|^{-1/y_t}, \qquad \nu=\frac1{y_t}. \]
さらに \(m=-\partial f/\partial h\) より
\[ \beta=\frac{d-y_h}{y_t},\qquad \gamma=\frac{2y_h-d}{y_t}. \]
この段階では scaling 仮説を置いただけであり、\(y_t,y_h\) の値は分からない。RG は、仮説を固定点近傍の固有値問題へ変え、指数を計算する枠組みを与える。
6. hyperscaling の注意
\(f_s\sim\xi^{-d}\) を使うと \(2-\alpha=d\nu\) が得られる。これは相関体積ごとに有限個の有効自由度があるという hyperscaling 仮説を含む。上部臨界次元より上では dangerously irrelevant な \(\phi^4\) coupling のため単純な hyperscaling が破れる。したがって scaling relation をすべて無条件の恒等式として扱ってはいけない。
出典案内
相関長、scaling仮説、指数関係、hyperscalingの適用範囲は Fisher (1998) を参照する。ここでのOrnstein–Zernike形は孤立したmassive poleが支配する場合に限定しており、一般の連続spectrumへの無条件な主張ではない。
章末整理
この章で分かったこと
相関長の発散は有限の減衰長が消えることを意味し、連続スケール不変性は相関関数のべき則を強制する。scaling 仮説は臨界指数を少数の RG 固有値へ還元する。
よくある誤解
- \(\xi=\infty\) は全自由度が同一値という意味ではない。
- scale invariant なら常に conformal invariant とは限らない。
- power law の観測だけで臨界性が証明されたことにはならない。
次の疑問
粗視化を実際の格子模型で定義すると、分配関数と Hamiltonian はどう変わるのか。
その結果、何が説明できるようになったか
指数関数的減衰とべき減衰、有限サイズによる丸め、指数間関係の起源を区別できる。
まだ説明できていないこと
scaling 仮説を生む具体的変換と固有値の計算法は未説明である。
次に自然に出てくる疑問
格子模型の粗視化を確率分布を保つ形でどう定義するか。