第17部 実空間RG――消去すると何が生成されるか

1. 変換を確率核として定義する

格子間隔を \(a\)、block の線形倍率を \(b>1\) とする。元の spin を \(s\)、粗視化後の block 変数を \(S\) と書く。実空間RGは、条件付き確率核 \(P(S|s)\) を用いて

\[ e^{-H'[S]}=\sum_{\{s\}}P(S|s)e^{-H[s]}, \qquad \sum_{\{S\}}P(S|s)=1 \]

と定義できる。第二式により

\[ \sum_{\{S\}}e^{-H'[S]}=\sum_{\{s\}}e^{-H[s]}=Z \]

だから、有限格子での分配関数は保たれる。これは変換の定義として exact である。ただし、得られた \(H'[S]\) を少数の coupling だけで表す段階で近似が入る。

例えば Ising block 内の多数決を採用するなら、奇数個の spin を含む block では

\[ P(S_B|s)=\delta_{S_B,\operatorname{sgn}\sum_{i\in B}s_i}. \]

偶数個の場合の tie breaking、確率的な soft blocking、block の重なり方は別々のRG schemeである。固定点の座標や flow の細部は変わりうるが、同じ固定点へ流れるなら臨界指数は一致すべきである。この発想の原型は Kadanoff (1966) の cell picture にある。

2. 一次元Isingのdecimationを最後まで行う

零磁場の一次元 Ising 鎖

\[ -H=K\sum_i s_is_{i+1} \]

で、偶数 site の spin を残し、奇数 site を和に取る。隣り合う残存 spin を \(S=s_{2j}\)、\(S'=s_{2j+2}\)、消去する spin を \(\sigma=s_{2j+1}\) とすると

\[ \sum_{\sigma=\pm1}e^{K\sigma(S+S')} =2\cosh[K(S+S')]. \]

右辺を \(A e^{K'SS'}\) と表す。同符号なら \(S+S'=\pm2\)、異符号なら \(S+S'=0\) なので

\[ Ae^{K'}=2\cosh(2K),\qquad Ae^{-K'}=2. \]

従って

\[ K'=\frac12\log\cosh(2K), \qquad A=2\sqrt{\cosh(2K)}. \]

\(A\) は自由エネルギーを変える additive constant だが、相関を議論する coupling flow からは分離できる。この例では零磁場・最近接という作用の形が閉じ、recursion は exact である。

\(K>0\) に対し \(K'<K\) であり、有限温度の有限 \(K\) は反復により高温固定点 \(K=0\) へ流れる。低温固定点は \(K=\infty\) である。有限の不安定固定点がないことは、一次元 short-range Ising に有限温度相転移がない事実と一致する。大きい \(K\) では

\[ K'=K-\frac12\log2+O(e^{-4K}), \]

だから、domain-wall fugacity \(y=e^{-2K}\) を使う方が線形化しやすく、\(y'=2y-2y^3+O(y^5)\) となる。固定点近傍で適切な座標を選ぶ重要性がここにも現れる。

3. 二次元では作用の形が閉じない

正方格子で一つの sublattice を消去すると、消去 spin \(\sigma\) に接する四つの残存 spin \(s_1,\ldots,s_4\) から

\[ \sum_{\sigma=\pm1} e^{K\sigma(s_1+s_2+s_3+s_4)} =2\cosh\left[K\sum_{a=1}^4s_a\right] \]

が生じる。この重みは一般に、一個の最近接 coupling \(K'\) だけでは全ての外部配置について再現できない。対角を含む pair coupling、四体 coupling、さらに反復後には長距離・多体相互作用が生成される。

一つのstarについて実際に分解する。四つの外部spinを円周順に \(s_1,\ldots,s_4\) とし

\[ \log\left[2\cosh K(s_1+s_2+s_3+s_4)\right] =C+K_2\sum_{1\le i<j\le4}s_is_j +K_4s_1s_2s_3s_4 \]

と置く。star単体は四外部spinの任意の置換に対称なので、この段階では隣接pairと対向pairの係数は同じ \(K_2\) である。配置を、全て同符号、三対一、二対二に分類し

\[ L_4=\log[2\cosh(4K)],\qquad L_2=\log[2\cosh(2K)],\qquad L_0=\log2 \]

と書く。それぞれのpair和と四体積は

\[ (6,1),\qquad(0,-1),\qquad(-2,1) \]

なので

\[ L_4=C+6K_2+K_4,\qquad L_2=C-K_4,\qquad L_0=C-2K_2+K_4. \]

これを解くと

\[ K_2=\frac{L_4-L_0}{8}, \qquad K_4=\frac{L_4-4L_2+3L_0}{8}, \qquad C=\frac{L_4+4L_2+3L_0}{8}. \]

\(K_4\) は一般に非零であり、pair相互作用だけでは閉じないことが明示的に分かる。格子全体でstarを重ねて反復すると、幾何学的に異なるpair couplingとさらに長距離の多体項が生成される。

従って理論空間は

\[ H[s]=-\sum_\alpha K_\alpha\mathcal O_\alpha[s] \]

という無限個の対称性許容演算子で考える必要がある。RG写像は \(K_\alpha' =R_\alpha(\{K\})\) であり、最近接 Ising 軸だけを追うことは無限次元写像の射影である。

ここから二種類の誤りを区別できる。

  1. 消去和や block kernel 自体を近似する誤り。
  2. exact に生成された \(H'\) を少数 coupling へ射影する truncation error。

両者は同じではない。truncation を改善するには、対称性と canonical relevance に基づいて演算子基底を広げ、異なる blocking や基底で universal quantity が安定するかを調べる。

4. majority rule と情報の喪失

粗視化は一般に可逆でない。同じ block magnetization をもつ多数の微視配置が一つの \(S_B\) に写る。しかし「情報を捨てる」だけでは普遍性の説明にならない。必要なのは、捨てた情報に対応する coupling perturbation が固定点近傍で irrelevant、すなわち反復により減衰することである。

固定点 \(K^*\) の近傍で

\[ \delta K_\alpha'= \sum_\beta T_{\alpha\beta}\delta K_\beta+O(\delta K^2), \qquad T_{\alpha\beta}= \left.\frac{\partial R_\alpha}{\partial K_\beta}\right|_{K^*} \]

と線形化する。固有値を \(\lambda_i=b^{y_i}\) と書けば、\(y_i>0\) は relevant、\(y_i<0\) は irrelevant、\(y_i=0\) は marginal である。温度方向の固有値から \(\nu=1/y_t\) が得られる。

非可逆性から直ちに単調な「RG entropy」が存在するとも限らない。二次元相対論的QFTの \(c\) theorem などは追加の局所性・unitarity・Lorentz invarianceを用いる強い主張であり、任意の block-spin map の一般論ではない。

5. Migdal–Kadanoff 型近似の位置付け

bond moving と decimation を組み合わせる Migdal–Kadanoff recursion は、高次元格子の flow を少数 coupling で扱う有用な近似である。一部の階層格子では対応する recursion が exact になるが、通常の正方格子・立方格子で exact とは限らない。Migdal (1975) と Kadanoff (1976) の recursion を使うときは、対象格子、bond-moving prescription、保存される量を明記する必要がある。

近似RGの価値は、相構造、固定点、crossover、指数の概算を低コストで調べ、より系統的な方法へ接続することにある。検証では少なくとも次を確認する。

  • 高温・低温極限を正しく写すか。
  • 対称性を保存するか。
  • 既知の exact result や高精度数値とどの量が一致するか。
  • blocking factor や truncation を変えたとき universal prediction が安定するか。

6. 実空間RGとtensor network

二次元古典分配関数は局所tensorの縮約として書ける。block内のtensorを縮約し bond dimension を切る操作は、実空間粗視化を数値線形代数として実装する方法である。ここでも exact contraction と singular-value truncation を分けなければならない。局所的に小さい特異値を捨てる規則が、臨界固定点の長距離情報を最適に保存するとは自動的に言えない。

この観点は、従来の「生成相互作用を手で列挙する」問題を、tensorの内部indexが運ぶ相関をどう圧縮するかという問題へ移す。ただし bond dimension による収束、短距離entanglementの除去、固定点tensorの非普遍な冗長性は別途監査が必要である。

証拠水準

  • 確率核による有限格子の分配関数保存: [Exact definition/identity]。
  • 1D zero-field nearest-neighbor decimationとstar分解: [Exact finite-step calculation]。
  • 少数couplingへの射影: [Operator truncation]。
  • 通常格子上のMigdal–Kadanoff recursion: [Approximation]。対応する階層格子でexactな場合と分ける。

章末整理

この章で分かったこと

実空間RGは確率核を用いて exact に定義できるが、多次元では一般に無限個の相互作用を生成する。一次元 Ising decimation は閉じる特別な例である。

その結果、何が説明できるようになったか

block spin の直観を、分配関数を保つ写像、理論空間の線形化、truncation errorという検査可能な言葉へ変換できる。

まだ説明できていないこと

一般の相互作用基底で固定点を高精度に求める方法と、tensor truncation の誤差評価は後の数値RGの課題である。

よくある誤解

  • coarse graining を定義しただけでは臨界指数は求まらない。
  • 消去後も最近接相互作用だけが残るとは限らない。
  • Migdal–Kadanoff recursion は通常格子上で常に exact ではない。

次に自然に出てくる疑問

相互作用のないGaussian理論では、無限次元の理論空間と固有演算子をどこまでexactに調べられるか。