第33部 固定点に到達しないRG――一次転移、walking、limit cycle

1. 固定点像の適用範囲

連続相転移では、臨界面上のRG軌道が実固定点へ近づき、線形化固有値が指数を決める。しかし全てのflowがこの形ではない。

  • 有限RG時刻でcouplingが強結合へ走るrunaway flow。
  • 二つの固定点が衝突して複素平面へ消えるfixed-point annihilation。
  • 長いscale範囲をゆっくり流れるwalking。
  • couplingが周期軌道へ戻るlimit cycle。
  • marginal方向に沿うfixed line。

固定点が見つからないとき、「相転移がない」と即断せず、truncation、変数、非摂動効果、一次転移の可能性を分ける。

2. Landau理論の一次転移

\(\mathbb Z_2\) 対称な一様自由エネルギーを

\[ f(m)=\frac r2m^2+\frac u4m^4+\frac v6m^6, \qquad v>0 \]

とする。\(u>0\) では \(r=0\) を通る通常の連続転移が可能である。\(u<0\) では \(m=0\) と \(m\ne0\) の極小がある \(r>0\) で縮退し、秩序変数がjumpする。

\(x=m^2>0\) と置く。停留条件と相共存条件は

\[ r+ux+vx^2=0, \]

\[ \frac r2x+\frac u4x^2+\frac v6x^3=0. \]

両式から

\[ x_{\rm coex}=-\frac{3u}{4v}, \qquad r_{\rm coex}=\frac{3u^2}{16v} \]

を得る。\(u<0\) なので \(x_{\rm coex}>0\) で、\(m\) は0から有限値へjumpする。\(u=0,r=0\) は平均場のtricritical pointである。

この計算は一様平均場であり、揺らぎが一次転移を弱めたり強めたり、新しい固定点を生む可能性は別途調べる。

3. runaway flowの読み方

有限coupling領域に安定固定点がなく、quartic couplingがpotentialを不安定化する向きへ走ると、fluctuation-induced first-order transitionの兆候になりうる。しかしrunawayには少なくとも三つの解釈がある。

  1. 実際に相関長が有限の一次転移へ向かう。
  2. coupling座標が不適切で、別変数では有限に記述できる。
  3. 摂動展開・operator truncationが強結合で破綻した。

従って摂動beta functionの発散だけは一次転移の証明でない。effective potentialの二重極小、latent heat、有限サイズ分布、interface tension、非摂動手法との一致を確認する。

4. 固定点衝突のnormal form

一変数の局所normal form

\[ \frac{dg}{d\ell}=\delta+g^2 \]

を考える。\(\delta<0\) では

\[ g_\pm=\pm\sqrt{-\delta} \]

の二固定点がある。\(\delta=0\) で衝突し、\(\delta>0\) では実固定点がなくなる。

小さい \(\delta>0\) では \(g\simeq0\) のflowが遅い。\(-\infty\) から \(+\infty\) を通過するRG時刻は

\[ \Delta\ell =\int_{-\infty}^{\infty} \frac{dg}{\delta+g^2} =\frac{\pi}{\sqrt\delta}. \]

長さscaleは \(e^\ell\) なので

\[ \xi\sim \exp\left(\frac{\pi}{\sqrt\delta}\right) \]

型の巨大だが有限な相関長が現れる。有限sizeや有限精度ではpower lawに見えるpseudo-criticalityを生みうる。

5. complex fixed pointとwalking

\(\delta>0\) のnormal formを複素couplingまで拡張すれば固定点は

\[ g_\pm=\pm i\sqrt\delta \]

にある。実couplingの物理系はそこへ到達しないが、近接する複素零点が実flowを遅くできる。この描像は弱い一次転移と広いscaling windowを説明する候補である。

複素CFT dataは一般にreflection positivityを満たすunitary CFT dataではない。実系の近似的scalingを記述する解析構造として扱い、真の連続転移と呼ばない。walkingとcomplex CFTの整理は Gorbenko–Rychkov–Zan (2018) を参照する。

6. BKTのessential scaling

二次元XY模型ではvortex fugacity \(y\) とstiffnessに関する変数 \(x\) のflowが、規約依存係数を吸収して概略

\[ \frac{dx}{d\ell}=y^2, \qquad \frac{dy}{d\ell}=xy \]

となる。通常の孤立双曲固定点を一つのrelevant固有値で離れる問題ではなく、fixed lineとseparatrixの近くを流れる。

高温側の相関長は

\[ \xi\sim \exp\left(\frac{b}{\sqrt{T-T_{\rm BKT}}}\right) \]

型に発散する [RG asymptotic result for the BKT universality class]。Kosterlitz–Thouless (1973) 有限の \(\nu\) を用いる \(\xi\sim|t|^{-\nu}\) では表せない。有限範囲のlog-log plotから巨大な有効 \(\nu\) をfitしても、通常のpower-law universalityとは限らない。

7. limit cycleと離散scale不変性

coupling vectorが

\[ \boldsymbol g(\ell+T)=\boldsymbol g(\ell) \]

を満たすと、RG limit cycleである。連続scale不変性ではなく倍率

\[ b_0=e^T \]

ごとの離散scale不変性をもち、observableにlog-periodic correctionが現れうる。

三体量子問題のEfimov効果は代表例で、束縛状態energyが幾何級数をなす [Exact discrete-scaling structure in the universal zero-range limit]。Braaten–Hammer (2006) ただしlimit cycleは通常の短距離平衡ferromagnetのgenericな挙動ではない。unitarity、局所性、次元、自由度により許されるRG挙動は制約される。

8. 一次転移の有限サイズ診断

一次転移では相共存点で二つのphaseの確率peakが並び、自由エネルギーbarrierは周期境界の界面面積に比例して概略

\[ \Delta F_{\rm barrier}\sim \sigma L^{d-1} \]

となる。比熱・感受率のpeakは体積 \(L^d\) に比例し、pseudo-transition widthは \(L^{-d}\) 型に狭まることがある。

連続転移の \(L^{\gamma/\nu}\)、\(L^{1/\nu}\) scalingと区別できるが、弱い一次転移では相関長がsystem sizeより大きく、前漸近的に連続転移へ見える。複数size、histogram、Binder量、interface tensionを組み合わせる。

9. 証拠水準

  • Landau六次potentialの共存点: 仮定した一様potential内の [Exact algebraic result / mean-field model]。
  • normal formのwalking scale: 一変数flow内の [Exact integral]、個別模型への同定は [Model-dependent interpretation]。
  • complex CFTによる弱い一次転移: Gorbenko–Rychkov–Zan (2018) に基づく [Analytic scenario / model-dependent evidence]。
  • BKT essential scalingとEfimov cycle: それぞれの明示したuniversality limitにおける結果。

章末整理

この章で分かったこと

RGは実固定点だけでなく、runaway、固定点衝突、walking、fixed line、limit cycleを記述できる。

その結果、何が説明できるようになったか

弱い一次転移が広いscale範囲でpower lawに見える理由と、BKTのessential singularityを通常の指数scalingから区別できる。

まだ説明できていないこと

特定模型でcomplex fixed pointやlimit cycleが実現するための非摂動条件と、一次転移のnucleation dynamicsは未展開である。

よくある誤解

  • beta functionのrunawayだけで一次転移が証明されたとは限らない。
  • 巨大な有限相関長は真のscale invarianceと同義ではない。
  • BKT転移を有限の通常指数 \(\nu\) で表すことはできない。

次に自然に出てくる疑問

外部駆動とenergy fluxをもつ乱流や成長界面で、平衡自由エネルギーなしにRGは何を予言できるか。